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SAI  作者: T.K
絡まれ娘の騒ぎ唄
3/7

第二章 「ちょっと、こっちはマジなんだってば」

「わーっ! すみませんすみませんちょっと待って下さいーっ!」

 必死の懇願も虚しく、校門は無慈悲に閉ざされて行く。無表情に仕事に徹している生徒を――――朝に校門を閉じるのは、生徒会に所属している生徒の役割である――――確認してみると、よりにもよって生徒会長だった。学年は一つ違うが、遅刻魔の灯とはすっかり顔馴染みである。

(あああもうっ! 今日は藤沢先輩かついてないな!)

 もう人が通れる程の隙間は残されていない。だが、まだ完全には閉ざされていない。

 全力疾走の勢いのまま、校門の直前で大きく跳ぶ。右手で校門をつかみ、身体を内側に押し込み、足から着地。

「藤沢先輩、おはようございます」

「はい、おはようちょっと待ちなさい」

 一応礼儀として挨拶をしつつ駆け抜けようとしたが、襟首をつかまれて失敗する。さすが生徒会長、校門を跳び越えた程度では驚きもしないらしい。

「あなた、遅刻何回目?」

「えーっと、何回……と言いますと……」

「覚えてないほどってことね」

 生徒会長――――藤沢彩子は盛大にため息をついた。

「色々と事情があるんですよ〜」

「不良に絡まれたり、とか?」

「ええ、まあ…………はい?」

 予想もしていなかった言葉を彩子の口から聞いて、目を丸くする。

「見たわよ、今朝の。不良三人相手に喧嘩なんて、あなた結構無茶なのね」

 眼鏡の奥の瞳が冷笑している。その意味を理解してから、灯も同じような笑みを返した。先輩相手の礼儀など知ったことではない。

「向こうが絡んで来なきゃ私だって相手なんかしませんよ。にしても、ひどいですね、先輩。後輩が困ってるっていうのに、助けてくれないなんて」

「私はあなたと違ってか弱いのよ」

「でも、人を呼ぶことぐらいできたでしょう」

 唸り声をあげても、彩子は全く動じなかった。吐き捨てるように告げる。

「結局、見て見ぬ振りをしただけじゃないですか」

「……行きなさい。ホームルーム、もうとっくに始まってるわよ」

 彩子が去って行く。その背中に向かって、灯は舌打ちした。先輩への礼儀など、どうでも良くなっていた。


「よう、遅刻魔。今日は早いな〜」

「遅刻魔ゆーな……」

 とは言え、実際に遅刻しているのだから、強気に反論などできるわけもない。けらけらと笑う友人を横目に、机の上に突っ伏した。

 教室にたどり着いた時には、既にホームルームは終わっていた。笑顔を怒りに引きつらせた担任に、放課後に生徒指導室へ行くように指示をされたのが一時間程前。現在は休み時間である。

「ま、あたしも今日呼び出し食らってるし、仲良く一緒に行こうか!」

「あー……」

 友人が何故呼び出されたのか、聞かなくても何となく予想はついた。

 男女平等が謳われるようになった現在でも、まだ「良妻賢母を目指し、良き妻、良き母を育成する」などと言う文章が目標として掲げられているような学校である。制服改造など認められるはずもなく、髪を染めるなどもってのほか。もっとも、女性として最低限の身だしなみとして、多少の化粧は認められている。

「りーちゃんは、今度は外国人に目覚めたわけ?」

「失礼な。イメチェンだよイメチェン」

 目の前にいる友人は正真正銘日本人のはずである。が、現在は長い髪は鮮やかな金色に染められ、カラーコンタクトのおかげか、瞳の色は青くなっている。膝丈と決められているはずの制服のスカートは、短く切られ、すらりとした長い足を見せつけていた。身長百七十センチ以上の彼女には、金髪も青い瞳も短いスカートもよく似合っていた。それが担任の逆鱗に触れたのは、簡単に予想できる。

 友人―――野口凛々子は、校則違反の常習犯だった。かと言って決して劣等生というわけではなく、筆記試験では上位十名の中に必ず入る。

 校則破りの凛々子と遅刻魔の灯。何かしらでよく生徒指導室に呼び出されるため、そのうち妙な友情が育まれることになった。

「で、今日はどうしたの? なんか妙に苦戦してたっぽいけど」

「りーちゃんも見てたの?」

 がばっと身体を起こす。恨めしそうな視線を向けても、にやにやとした笑みが返ってくるだけである。

「見てたけど、あたしはか弱いからね」

「りーちゃんにまで見捨てられた〜」

 拗ねた口調で言って、再び机の上に倒れ込む。地団駄を踏む代わりに、手をばたばたと上下させた。

「見捨てたとは失礼な。ちゃんと人呼んだよ」

「誰を」

「えーと、何だっけ。ああ、ほら『カズさん』って人」

「あー…………」

 凛々子の話を聞いて、駄々をこねる気力もなくなった。代わりにカズへの怒りが湧いてくる。

 ――――人に呼ばれて来たのに、呑気に見学してたのか、あの人は。

「にしても、あかりんもついてないね。今月入ってからもう何回目? 不良に絡まれるの」

「…………私、もう大通り以外通らないことにする」

「で、大通りに行ったら今度はしつこい勧誘に捕まるわけだ」

「あう〜」

 全くもってその通りなので、反論が出来ない。小柄で童顔、おまけに第一印象「大人しそう」となると、人気のないところでは不良に絡まれ、大通りでは妙な勧誘にしつこく付きまとわれる。外見で苦労したことは数えきれないほどあるが、得をしたことはほとんどない。

「でもそろそろ、本当に気を付けた方が良いよ、あかりん」

「ご忠告どーも」

「ちょっと、こっちはマジなんだってば」

 凛々子が声を潜めた。顔を上げて、友人の方を見る。

「メデューサって知ってる?」

「見ると石になっちゃうやつ?」

「んー、なんていうか、不良たちの間でもヤバイ奴扱いされてるような奴のあだ名的な?」

 初耳だった。首をかしげて、説明を待つ。

「男か女かもわからないらしいんだけどさ、喧嘩、滅茶苦茶強いらしいんだ。でもメデューサにやられた連中には、外傷はないんだって。ただ、目が赤く光って、その目を見た人はまるで石になったみたいに固まって………で、どこも怪我してないはずなのに、痛い痛いって怯え出すとか」

「目が光る…………?」

 引っ掛かった。おとぎ話扱いされてはいるが、この青済市には確かに能力者と呼ばれる者が存在する。能力を使用する際、赤い光を纏うのはよくあることだ。もしかしたら――――

「それで、病院送りになっちゃった人も居るんだって。気を付けなよ、あかりん。いくら喧嘩に強くても、メデューサは普通じゃないよ」

「うん、気を付けるよ」

 今度は真面目に頷いた。そんな化け物の相手などしたくはない。

 しかし、もし相手が能力者であるのなら。

 この先、遭遇する可能性は決して低くはなかった。


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