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強盗に入ったら犯罪者の巣窟だった  作者: 二上たいら


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ハードル 03 インターバル

「なんでしょうね。この現場」


 現場を踏み荒らさないように室内を注意深く歩きながら新人ルーキーは言った。


「殺人現場だ」


「それは見ればわかりますよ。先輩」


 駅に近い閑静な高級住宅街で近所が騒がしいと通報があり、所轄の巡査が現場に到着した。

 巡査は床に倒れ、すでに冷たくなった二人を発見。

 被害者の状態からすぐに捜査一課の私たちが呼び出されたという寸法だ。


 いまは監察医の到着を待っている段階だが、医者が来なくてもわかることがある。


「死後硬直が始まってるな。不自然だ」


 私がそう言うと新人ルーキーは個人端末を取り出して時間を見た。


「通報があったのが2315《ふたさんいちご》で、現在時刻が、あ、ちょうど日が変わりましたね」


 今時の若いヤツは時計も持たないのかとつい思ってしまうが、ネットワークに繋がっている個人端末のほうが時刻は正確で、証拠能力が高いから困ったものだ。

 こまめに時計を合わせるような習慣はすっかり無くなってしまった。


「医者がすぐに見解を出すだろうが、死後二時間は経ってる。通報者が聞いたのは殺害後、しばらく経ってから起きた騒音ということになる」


「それもそうなんですが、それより興味深いのはこの血痕ですよ。スニーカーの靴底ですよね。二階に上がって降りてきてる。そして一番の驚きどころは二階のベッドですよ。先輩も見ましたよね」


 犯人がまだ屋内にいる可能性もあったため、私たちは屋内を隅々まで捜索した。

 もちろん二階の防音室に作られた育児室についても把握している。


「そりゃ見たが、手製の育児用ベッドを作る罪は俺たちの管轄じゃない」


「違法育児の摘発は捜査一課の管轄じゃないですか」


「罪が重いからな」


 殺人やテロ準備など、捜査一課の担当は重犯罪だ。

 違法な育児もそれに当たる。

 管理されていない人間の生産は社会へ重大な損失を与える恐れがあるからだ。


「育児を巡ってのトラブルだと思うんですよね」


 必要のない推理を始めるのは新人ルーキーらしい悪癖だ。

 捜査に必要なのはとにかく物証であって、推理ではない。


 私は声を強くして言う。


「この場に存在しない以上、児童がいたという証明にはならない。一旦忘れろ。それよりこの場に三人目がいたのは間違いないな」


「そうですね。被害者二人の靴はこの靴底とは一致しません。凶器のナイフが落ちていた位置からしても、もう一人いたのは間違いないでしょう」


「検問は?」


「手配はしてますが無駄でしょう。駅も近いですし、四十五分あればどこへでもいけます。走って逃げてるわけでもないでしょうし」


「それもそうだな」


 監察医が到着し、私たちの会話は一旦打ち切られる。

 やはり死後二時間は過ぎているというお墨付きが得られた。


「死後硬直を誤魔化す手段とかないんですか?」


 新人ルーキーが監察医に質問すると、年季の入った監察医は肩を竦めて見せた。


「何百と遺体を見てきましたが、硬直具合から見て四時間は経ってますよ。ただ抵抗跡が凄まじいですし、出血も多い。死後硬直が早まっている恐れはあります。それ込みで最短二時間って見立てです」


「ちなみに被害者さんたちにアレはついてました?」


 遠慮を知らない新人ルーキーの質問に監察医は苦笑を浮かべる。


「男性は処置済み。女性は処置無し。きっちり穴がありますよ。非合法市民です」


「謎が深まるばかりですね。殺害された非合法市民。消えた非合法な児童。匿名の通報者。そして現場にいた第三者ようぎしゃ。犯罪者だらけじゃないですか」


「家主の男性が無垢の可能性はある」


「いやいや、先輩。それはないでしょ。どう見たって出産した非合法市民親子を匿っていたのはここの家主ですよ」


 新人ルーキーの言うことには一理ある。

 状況はその通りだ。

 だがそう見えるからとその線で捜査を進めるのは冤罪を産みやすい。

 物証だ。とにかく物証だけは嘘を吐かない。


 しかし新人ルーキーのペラペラ回る舌は止まらない。


「なんで子どもを産んで育てるなんてコスパの悪いことをするんですかねえ? そこで自分のキャリアが中断されるだけじゃないですか。しかも産んだ後もリソースを割かれるわけでしょ。せっかくお国がせっせと子どもを生産して育ててくれてるのに、気味が悪い連中だと思いません?」


「言い分はわかるが、今回の事件に関係ない話だ」


「そうですかねえ? むしろ違法な育児こそがこの事件の原因なのではないですか? そもそもセックスなんていう非人間的な行為で遺伝子を掛け合わせるなんて、何のメリットもないじゃないですか。ちゃんと精子と卵子を選別して優秀な子どもを生産するべきでしょう。そういう当たり前のこともわからない連中だから、こういう殺人なんていう事件を起こすんです」


 新人ルーキーの言うことは政府の見解と一致している。

 まるで政府の広報官だ。


「確かに登録市民と非合法市民では犯罪率がまるで違うのは統計で出ているが、両者の置かれた環境がまるで違うということも考慮しなければならないぞ。それに犯人が非合法市民だと決めつけるのは早計だ」


 私が言うと新人ルーキーはわざとらしく敬礼をしてみせる。


「了解であります。先輩」


 その時、不意に無線機にノイズが乗る。

 誰かが無線機のスイッチを入れたのだ。


『こちらCD334検問。たったいま赤ん坊を抱いたと思しき男が検問を生身で突破。至急応援を請う』


 CD334はここからそれほど離れていない。

 車でなら十分ほどの距離だ。


「ありゃ、走って逃げてましたね」


「何度も言っているだろう。先入観を捨てるんだ。行くぞ」


「了解」


 二人を殺害した凶悪犯だ。

 一刻も早く確保しなければならない。


 しかしなぜ赤子を連れて逃げているんだ?

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