第32話「影の輪郭 ―終末教団の真実―」
エコー・ラボの街に、戦いの余韻が残る。防衛に成功したとはいえ、街の空気は張り詰めたままだった。復旧班が瓦礫を片付ける中、ライはユウのもとへと急ぎ足で現れた。
「ユウ、終末教団の残党兵を二人捕らえた。今から聴取を始める」
ユウはすぐに頷き、聴取室へと向かった。地下に設けられたその部屋は、魔力障壁で外界と遮断されており、外の喧騒とは無縁の静寂に包まれていた。
ライはすでに準備を整えていた。椅子に縛られた二人の黒衣の男たちが、無表情のまま座っている。ユウが部屋に入ると、ライは鋭い声で問いを投げた。
「終末教団の目的を説明しろ」
一人の男が口を開いた。「我々は教団構成員。目的は旧神――エルダーゴッドの帰還だ」
その名を聞いた瞬間、部屋の空気が変わった。ユウは眉をひそめ、ライは拳を握る。
「エルダーゴッド…?」
男は続けた。「終末教団は地下教会を拠点に活動している。信者は様々な業界や階級から集まっており、上級民や貴族も少なくない。皆、身分は違えど同じ目標を持っている」
「それは、旧神の降臨によって人類の終末を迎え、選ばれし者だけが新世界へ至ることだ」
ライが吐き捨てるように言った。「エルダーゴッドが終末を終わらせて新たな世界を創るだと?そんな妄言、信じられるか。俺たちがお前らを終わらせる方がまだ現実的だ」
男は微笑すら浮かべず、淡々と答えた。「信じるか否かは関係ない。我々はそのために動いている」
ユウが一歩前に出る。「構成員は何人いる?」
「全世界に点在している。末端の我々には正確な数は分からないが、この周辺だけでも千人以上はいる」
その数字に、ユウは息を呑んだ。千人以上の信者が、同じ思想で動いている――それは、ただのカルトではない。組織だった脅威だ。
「最近、教団が活発に動いている理由は?エルダーゴッドの召喚と関係があるのか?」
男は頷いた。「ある。教団は今、召喚の儀式に向けて準備を進めている。記憶の芽も、その儀式の鍵の一つだ」
ライが声を荒げる。「首謀者は誰だ?」
「“シャドー”と呼ばれる三人の人物。姿は見たことがない。命令はすべて彼らから降りてくる。彼らこそが教団の中枢だ」
沈黙が聴取室を包む。ユウは深く息を吐き、静かに言った。
「シャドー…ついに名前が出たか」
聴取を終え、ユウとライは部屋を後にした。廊下でアゼルとすれ違い、報告を共有する。
「シャドーの存在が明らかになった。奴らの動きが本格化する前に、こちらも備えねばな」
ユウは拳を握る。「記憶の芽を守るだけじゃない。今度は、奴らの根を断ち切る」
その夜、街の外れの森。月明かりの下、黒衣の影が静かに立っていた。
「シャドー様、聴取されたようです」
「構わぬ。次の段階へ進め」
闇の中、三つの気配が交錯する。
“シャドー”――その名が、ついに物語の表層へと現れ始めた。
次回、第33話「記憶の胎動 ―リナと記憶核―」




