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ばん、と派手な音を立てて、シオンハイトは乱暴に扉を開けた。この部屋の入口は、タラップを上がってすぐの場所にあり、なにより荷物が置かれている場所なので、当然部屋の前は開けていて、見通しがいい。
だから、こっそりと扉を開けたところでバレずに行動できるわけがないから、むしろ勢い任せに出て行った方がいいのは分かるけど、いざその行動に移ったところを目の当たりにすると、ひやひやする。
わたしは思わず、シオンハイトにしがみついた。お姫様だっこ、というよりは、子供を抱きかかえるような体制だから、そう簡単に振り落とされるとは思わないけれど、自然とシオンハイトのシャツを掴む手に力が入る。
扉が急に空いたことで、外にいた数名が一斉にこちらを向いた。……確かに、シオンハイトが言っていた通り、人数は少ない。二、三人、と言ったところだろうか。
そのほんの数人がわたしたちのことを認識して、捕まえようと行動に移る前に、シオンハイトは船のへりにある手すりに足をかけた。
「う、うそ、いや、まっ――」
わたしが声を上げると同時に、シオンハイトはそこから飛び降りる。海側ではなく、港の地面側に。目測だから何とも言えないが、少なくとも二メートル以上の高さから飛び降りている。建物の二階よりは低いけど、それでも十分高さがある。
死ぬようなものではないけれど、だからこそ、恐怖がダイレクトに伝わってくる。気絶するような高さでもない。
しかし、シオンハイトにとって、このくらいの高さはなんてことないのか、着地すると同時に走り出した。獣人の身体能力、どうなってるの? それとも、シオンハイトが凄いだけ?
シオンハイトに抱きかかえられながらわたしの脳内は、現状に追い付けず混乱に見舞われている。
少し遅れて、「誰か逃げたぞ」とか「追わなくていいのか」とか、そんな感じの荒っぽい声が、背後から、遠く聞こえてきた。
これだけの身体能力と判断力があるなら、そりゃあ、わたしが冗談で言ったつもりのごり押し作戦にも賛同するわけだ。
しばらく走れば、完全に港から離れた街に到着した。誰も追っては来ていない。
「一度、人目のないところで一応色を変えておいてくれる?」
わたしを下ろしてそう言ったシオンハイトの息は、少し上がっているだけ。それなりの距離を走って来たと思ったんだけど……。
騎士団の団長って凄いのかも、と今更ながらにわたしは思い知らされた。騎士団の団長は、王族だからこそ就ける役職のようだったから、勝手に書類仕事メインのイメージを持っていたのだ。
あまりにわたしがぽかん、としているからか、「もしかして、どこか怪我した? 舌とか噛んだ?」とシオンハイトが心配してきた。
そんな風に心配してくれるシオンハイトの息は、もう通常に戻っている。
シオンハイトって、凄い……。




