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「しっ……てた、の?」
明らかに知っていたような反応に、わたしは思わず問うてしまった。
「……獣人を使って実験してたのは、流石に知らなかったよ。でも、獣人には、『異能』が効かないこともある、っていうのは知ってた――と言うか、分かってた」
「分かってた……?」
不思議な言い方である。――いや、不思議、でもないのか。
その言い方は、実際に体験したことなのだろう。
「どうやら僕は、記憶をいじるような『異能』とはあまり相性がよくなくて、ほとんど効かないみたいなんだ」
「それは――」
わたしがシオンハイトを忘れて、シオンハイトはわたしを覚えていた理由は、それだったのか。てっきり、わたしは記憶をいじられて、シオンハイトはオアセマーレにいなかったから記憶を消されなかったのだと思っていたが、違うらしい。
「それに、戦争では僕たちリンゼガッドが優勢だった。そっちではどう教えているのか知らないけど。でも、本当ならそんなことはおかしいんだ」
……おかしい。それは確かに納得できる言葉だった。ずっと気が付かなかったけれど。
前世の記憶があるからか、銃火器を使える相手に剣や拳の接近戦が勝てるわけがない、と無意識に決めつけていたのだろう。それに、『異能』を使えるのは、ほぼほぼ女性しかいないので、いくら『異能』を使えるからといって、純粋な力勝負で男に女が勝てるイメージがなかったのだ。
確かに、わたしたちオアセマーレは人間の国で、『異能』に頼り切った文明、文化をしている。文化レベルで言えば、リンゼガットの足元にも及ばないし、武器だって、リンゼガッドの方が圧倒的に優秀で最先端のものを使っている。
でも、結局は、武器が優れているだけ。言い方は悪いが、その有能な武器を使う前に、使用者を殺してしまえば、いくら使う武器が凄いものでも意味がない。
そして、『異能』の内容によっては、それができてしまう。それも、簡単に。
それでも押され気味だったというのならば、肝心の『異能』が通用しない相手がいるということになる。
「……じゃあ、シ……、ハイドは、わたしが誰に記憶を消されたか、知ってるの?」
「それは……」
シオンハイトから、目をそらされたような気がした。わたしに言いにくい相手なんだろうか。
……じゃあ、わたしの知っている人?
なんだか胸がざわざわしてきた。妙な不安感が体に広がる。
教えて、と言おうとした瞬間、船が大きく揺れた。……止まってる?
窓がないから確認のしようがないが、もし船が港にたどり着いて止まったのなら、ここが開かれるのも時間の問題だ。
今のうちにこの部屋を離れないと。
わたしの記憶を消したのは誰なのか。
気になるけれど、今はここを出なければいけない。
わたしは彼からわたしの記憶を奪ったのは誰か、と聞き出したい気持ちをこらえ、立ち上がった。




