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男が教えてくれた倉庫は薄暗く、埃っぽい物置だった。ただし、そこそこ広くて死角が多いので、確かにここは隠れるのに丁度いいかも。窓もないし。
壁際につるされたランタンだけが光源で、荷物の影に隠れてしまえばそうそう見つかることはないだろう。
わたしたちは手探りで、入口にほどよく遠い場所に置かれた荷物の影に隠れる。うっすらとランタンの光が届くので、完全な暗闇ではないから、もし誰か来てもある程度状況を把握できる。隠れる場所も気を使ったので、そのわずかな光でわたしたちの影ができてしまう、ということもない。
ようやく気が抜けそうな場所にやってこれて、わたしは少しだけ、深く息をはく。安心するのはまだ早いが、肩の力が少々抜ける。
わたしはため込んでいた息を吐くようにすると、持っていた書類に目をやる。……ぎりぎり、読めなくはない。もう少し目が暗闇に慣れたら、ハッキリと読むことができるかも。
あの引き出しに隠されていた書類たち。違法奴隷の売買に関しての書類はあの場で読んだけれど、他は全く目を通していない。どんなものなんだろう、とわたしは目を凝らした。
わたしがもぞ、と動いたのが分かったのか、シオンハイトもわたしの手元にある書類に目線を落としたのが、頭の動きで分かる。
じ、っと目を凝らして見る――『実験結果』? だろうか。そんなタイトルが書かれている。並んでいる人物の特徴は、全て獣人の獣の種類と性別、それから年齢があげられている。
つまりは、これが、違法に入手した獣人奴隷の使い道、ということなのだろうか。顧客リストを見れば、皆が皆、人体実験の材料にされているわけではなさそうだが、獣人に関しては、結構な人数が実験に使われていると見てもおかしくないだろう。
人体実験の報告書。気味が悪すぎて、このまま丸めて捨てたい衝動にかられる。もちろん、重要な証拠なのでやらないけど。
ざっと見た感じ、結構な人数が犠牲になっている。わたしが生まれる前から行われているのなら、確かに被害者はこのくらいの人数になってしまうものなのか。
でも、この実験って――。
「――……これ……」
読み進めていくうちに、わたしは思わず声を漏らしてしまっていた。
簡潔に結果だけが書かれた書類。
ただ、これから、ある程度、何がしたいのかを読み取ることは可能だ。
その実験結果が表すものとは。
――獣人に、一部の『異能』が効かない、というものだった。
そんな馬鹿な。だって、わたしの色つけの『異能』、もとい、色変えの『異能』はシオンハイトに使えたじゃないか。
わたしは驚いて、書類から顔を上げ、シオンハイトの顔を見てしまう。
薄暗い中、彼の表情はハッキリとは見えない。
それでも、シオンハイトが驚いている雰囲気がないことは確かだった。




