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盛大に悲鳴を上げなかっただけ、褒めてほしいくらいだ。二度も人生を体験しているけれど、こんな高さから下りたことは一度だってない。
シオンハイトは綺麗に着地したし、二階から下りたところでそうそう死ぬとは思えないけれど、本気で死ぬかと思った。今日一番、心臓がバクバクしている。
「とりあえず、どこかに逃げよう。このまま島の外に出られたらいいんだけど……」
部屋を抜け出たのがバレる前に戻って、証拠を持ったまま次の場所へ、と行ければ最高だったのだが、既にばれてしまったので、この案は使えない。髪色等を今から変更することは可能だけど、流石に人数は把握しているだろうから、他の違法奴隷として紛れ込むことはできない。
かといって、泳げるような距離でもないと思う。それなりに船で揺られてきたし。
となれば、船が出航するまで見つからずに隠れて、荷物にでもまぎれてここを出るしかない。流石のシオンハイトだって、船を運転できるとは思えないし、仮に運転できたところで船を強奪するのはもっと難しそうだ。
船がある場所の近くに潜伏できればいいけれど、多分そんなことは向こうだって気が付くだろう。きっと、船着き場に人がいるに違いない。
わたしが唸りながら考えている間にも、シオンハイトは一旦見つからなそうな場所へ、とわたしを抱きかかえたまま、走り出した。
海が近いからか、建物の周りには防風林としての役目を果たしているのであろう木々が植わっている。ただ、うっそうとしている森ではなく、割と見通しがいいので、少なくとも、姿は誰かに見られてしまうだろう。
そして防風林を抜けてしまえば、海に――船着き場にたどり着いてしまう。身を隠すのに最適な場所はないけれど、少なくとも、二階から下りてすぐの場所に突っ立っていたら、窓から見えてしまうので、この場から離れないといけない。
追手の声は今のところ聞こえない。
でも、見つかるのは時間の問題、というのは明らかだった。
「――ティア、あれ!」
シオンハイトが小声でわたしに話しかけてくる。あれ、とシオンハイトがあごで指し示すのは、一隻の船。そこそこ大きく、荷物を運び終えたのか、今にも船着き場を出る準備をしているところだ。
あの船がどこに行くかも分からない。ただ、少なくとも、漁船でないことは確かなので、海に出た後、どこにも陸に寄らずにまたこの島に戻ってくる、ということはないだろう。
一か八か。
わたしたちは、その船へとタラップが引き上げられてしまう前に飛び乗った。




