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わたしは今度こそ机の下から這い出て、引き出しの中を見る。
中には数枚の書類が入っていた。その紙を見て、わたしは息を飲んだ。それは、同じく机の下から出てきて、わたしの後ろから覗き込んでたシオンハイトも同じである。
見つけた書類は、共通語に翻訳された違法奴隷の売り先のリストだった。
半分くらいは、オアセマーレに実在する貴族家や、聞いたことのある豪商一族の名前が連なっている。もしかしたら、わたしが見覚えない残りの名前は、リンゼガッド側の貴族や富豪の名前なのかも。
さらには、それだけではなく、オアセマーレ以外にも、戦争に関わっている国の有名な貴族の名前がいくつかあった。
売り先の名前に、どんな獣人をどのくらいの値段で売ったのか書かれている、確実な証拠だ。
主にリンゼガッドからではあるが、様々な国から獣人をさらい、一度ライレグーンに集め、そこから顧客の元へと売りさばいているようだ。
リンゼガッドも、オアセマーレも、それだけにとどまらず、いろんな国が加担している闇の部分を目の前にして、わたしは手が震えた。
これ、表に出して大丈夫な奴なのか?
オアセマーレとリンゼガッドにいるであろう、数名の悪い奴を捕まえて、引きずり下ろして終戦に向けて動こうと思っていたのに、それだけでは終わらなそうな勢いである。レギーナ様は、それが分かっていた上で、わたしに情報を集めるよう頼んできたのだろうか。
顧客リストを読み終え、次の書類に手を出そうとしたところで――シオンハイトがわたしの腕を掴んだ。
「――まずい、バレたかも」
シオンハイトの耳が、先ほどのように動いている。すぐに、わたしにも分かるくらい、バタバタと大きな足音が聞こえてきた。
先ほど、この部屋を素通りしていった誰かが、わたしたちが抜け出た部屋の中を見て、わたしたちがいないことに気が付いたのかもしれない。
わたしたちは、慌てて、関係がありそうな書類をまとめる。もっといろいろ調べたいところだが、リンゼガッドの王子のサインがある書類や、顧客リストを持ち出せれば、なかなかの証拠になるはず。この世界では『異能』を用いて証拠を調べるので、捏造証拠はすぐに見破られる。その逆で、証拠の信用性も確固たるものとなるのだ。
しかし、どうやって逃げ出そう。あまり複雑な造りではない建物のようだから、廊下に出たら簡単に見つけられそうだ。
となると、また、隠れてやり過ごすしかないのかな。机の下は流石にすぐ見つかりそうだけど……。
どこか隠れる場所は――と探していると、ふわっと体が浮いた。
「捕まってて。書類も、手放さないでね」
すぐ近くで、シオンハイトの声がする。お姫様だっこだ!? と驚いたのも一瞬。
「――っ、ひぃ!?」
シオンハイトはためらいなく、窓から外へと飛び降りた。ここは二階だから、まだ怪我は少ないかもしれないけど――それでも二階だよ!?




