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シオンハイトが先導してくれて、誰かに見つかることはないが、それでも気は抜けないし、緊張して心臓がばくばくしている。
一つの部屋に入ると、そこは事務室のような場所で、机と椅子がいくつかセットになって並んでいる。……顧客リストとかが期待できそうな場所だ。
わたしとシオンハイトは、急いで部屋を漁る。と言っても、物音を立てたらいけないので、あまり乱暴に物を探すことはできないのだが。
しばらく探していると、ふと、シオンハイトが「これ……」と声を上げた。わたしはまだ何も見つけられていないのだが、シオンハイトはなにか発見できたのだろうか。
「……兄上の――ビードレッド兄上の字だ」
一枚の紙を見ながら、ぽつり、とシオンハイトが言った。
兄上……ってことは、リンゼガッドの王子がこの一件に関わっている、ということ? でも、この戦争はわたしが生まれる前からある。シオンハイトはわたしより年上なので、彼の兄たちも自然とわたしより年上になるのだが、シオンハイトとそう年が離れているようには見えない。
もし、戦争勃発の原因がライレグーンと違法奴隷であるのなら、ビードレッドが十歳にも満たないような年齢で戦争を引き起こしたことになる。
王族の十歳は、前世でイメージするような子供ではなく、知識も態度も、もっと大人びてはいるものの、それでもやはり子供は子供。そんな年齢で戦争に関わってくるとは思えない。
戦争の原因はこれじゃなかったのか? という、わたしの言葉を否定するように、シオンハイトが、もう一枚の紙を見つけた。
「……こっちはフィナディの字……?」
フィナディ。聞いたことない名前だ。
わたしが「フィナディって誰?」とシオンハイトに問うと、幼いシオンハイトを、オアセマーレにある獣人奴隷の保護活動をしていた家へ連れて行ってくれた家庭教師のことだという。その家が、わたしの実父の実家なのだろう。
フィナディは狐の獣人らしい。……そう言えば、そんな人が、いたような……。正直、パッと見た限りであの耳はあの獣だな、とすぐ分からないので、獣人の種類には自信がない。連れ去られる前にいた狐の獣人のように、分かりやすい耳でなく、黒い狐とかだったら絶対に狐だと気が付いていないと思う。
「……これ、引継ぎのサインみたい。フィナディが最初関わってて、後から兄上に変わってる」
書類の内容は、違法奴隷の売買に関して、必要資金を援助する代わりに、売り上げの一部をバックしてもらう、という契約書らしい。
……でも、そのフィナディって人は、獣人奴隷保護の活動をしていた家と関わりがあったんだよね……? 立場から考えたら、むしろ、奴隷を保護したり解放したりしそうなものだけど。
そんな人が、どうして違法奴隷を支援しているんだろうか。




