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しばらくすると、船が動き出す。急に動くものだから、びくりと肩を跳ねさせると、シオンハイトが寄り添うように、近くに来てくれる気配がした。
少しだけ安心するものの、目が見えないというストレスは、覚悟していた以上にしんどい。口枷まではされていないので、いざとなれば外してもらうことは可能だが、流石に船が港から出たばかりの今、自由にしてもらうわけにはいかない。
ただ、リンゼガッドからライレグーンまで、そう遠くはないはず。あの地図が正しければ。
しかし、あの地図を仮に信じたとすると、どう考えたって、リンゼガッドからもオアセマーレからもライレグーンであろう島が見えるはず。何か『異能』を使われているのは確実だ。誰からも見えない、あるいは認識されない、という状況に、わたしは女王様を隠していた状況のことを思い出す。あれと同じ類の『異能』に違いない。
今、このチャンスを逃してしまえば、次はもうないかもしれない。そう考えると、まだ目隠しを外すわけにはいかなかった。
船が動いてから、体感ではあるものの、三十分もかからないで船体の動きが止まった。何かトラブルか、と思うと、足音が聞こえてくる。
……もうついたの? 予想以上に早い。この早さだと、少なくともリンゼガッドからオアセマーレに行くことは不可能だ。場所にもよるけれど、船を使うのなら、一番近いところでも、もっと時間がかかる。
扉が開いたかと思うと、この船に乗ったときと同じく、立ち上がって移動することを要求される。
港につくと、聞いたことのない言語で話しているのが耳に届いた。もしかして、これがライレグーンの言葉なのだろうか。共通語でないのは、ライレグーンという存在が、この世界という枠組みから外されている国だから、なのだろうか。……それなら、『中央』が動いていないのも、少し納得だ。あれはあくまで、『中央』に加盟し、登録している国にのみ影響がある。
わたしはせっつかれるようにして、歩かされる。自分がいまどこにいるのかが分からない。……この辺りは、シオンハイトが把握してくれることを願うしかない。
「お前たちはこの部屋で大人しくしているように」
そう言って、また別の部屋に連れてこられた。扉が閉まると、すぐにシオンハイトがわたしの目隠しを取った。彼の両手も縛られているので、口で取ったのだとは思う。
目を開けると、そこは、小汚い部屋の一室だった。何もなくて、床も壁も、コンクリートづくりのように灰色で堅そうだ。少なくとも、壁や床を壊して部屋を出よう、なんてことは考えられない。
そして、この部屋にいるのは、わたしたち二人だけだった。
「他の獣人たちは、ここの建物のいくつかの部屋に分けされられていたから、もしかしたら用途か、売り場によって分けられるのかも」
シオンハイトは、辺りを見回すわたしにそう言った。
「ここを通るときに、扉はいくつかあったけど、どれもしっかり閉まっていたから中までは分からなかった。でも、見張りの人数はそんなに多くないみたい」
現に、わたしたちを見張る人はいないし、扉が閉められた後に聞こえた足音から考えるに、少なくとも扉のすぐ横に誰か待機している、ということはなさそうだ。




