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王城から抜け出し、城下町に出て人ごみに出られるところまでは成功した。……成功した、のだが。
近くに出た場所が場所だった。
飲み屋街に出たようなのだが、居酒屋が並ぶお店、とかではなく、明らかに綺麗なお姉さんと一緒に酒を楽しむような店ばかりが続くのである。別に、その手のものが苦手、というわけではないけれど、妙に露出の高い服のお姉さんばかりが店先にいると、目のやり場に困る。
しかも、夜中、という、おそらくこの手の店の、一番の稼ぎ時の時間帯だからか、妙な活気があって気まずい。
わたしたちの立てた作戦――ライレグーンの者が、それぞれの国から国民を攫っているのなら、別人になりすまして、実際に自ら誘拐されよう、というものを考えると、こういう、治安が悪そうなところに出るしかないのは分かっているのだが。
ここは、リンゼガッド王国の中でも結構その手の店が多くあまり治安がよくない場所で、かつ、港までの大通りが複雑でなく、馬車も速度を出しやすい割に裏通りの小道は結構入り組んでいて土地勘がなければ簡単に迷う、と、人さらいをするのならばうってつけ、という場所らしいのだ。
もちろん、これで上手く行かなかった場合の手も考えてあるが。
わたしの記憶が正しければ、子供の頃にあの家で見た、奴隷として保護されていた獣人は、多くが子供。次いで女性が多く、男の人はあまりいない。わたしはともかく、シオンハイトと一緒だと、攫われにくいかもしれない。かといって、シオンハイトがわたし一人にしてくれるわけではないのだが。
そういう、攫われるためにこの場所を選んだと分かってはいるが、それでも気まずいものは気まずい。
わたしは、シオンハイトから離れまいと、彼の手をしっかり握って、少しばかり彼に近寄った。すると、わたしの手首にシオンハイトのしっぽが絡む。
「大丈夫だよ。ちゃんと守るから」
……さらわれることにビビっているわけではないんだけどな。
わたしは気まずさを紛らわせるために、「結構賑やかなんだね」と話題をそらした。
実際、かなり賑やかではある。つい最近まで戦争をしていた、とは思えないほどだ。
……でも、これも、またすぐ曇ってしまうのかと思うと、その前になんとかしないと、という気持ちになる。
「……ねえ、ティア。向こうには、人探しを得意とする人もいるの?」
誰に会話を聞かれてもいいように、わたしの呼び名はティアに変わった。ララ、の時点で既に愛称であり、正しい名前ではないのだが、シオンハイトが普段からララと呼んでいるので、こうなった。ちなみにシオンハイトの偽名はハイドである。
向こう、は、オアセマーレ、得意とする、というのはそういう系統の『異能』ということだろう。勿論いる。
わたしが「いるよ」とうなずくと、「それなら、もし、全部上手くいったら、頼めないかな。……皆のために」と彼は言った。
奴隷とするために攫われた人の家族を探すのか。可能か不可能かで言えば、可能なはず。……次の終戦交渉が上手くいけば、その力を貸してもらうことも可能だろう。そもそも、次がいつになるのか分からないが。
そんな話をしていると、ふいに、シオンハイトの耳がくるっと動いた。




