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貴族の屋敷に、大抵一つはある、いざというときのための抜け道は、王城にもなると複数あるらしい。シオンハイトの部屋に二つ、図書室には一つ、廊下に繋がる扉とは別に、隠し通路へと通ずる出入口があると、シオンハイトは教えてくれた。
ベッドの下から入った扉の先には、長い階段がある。このまま一度地下に降り、地下通路を通ってからまた外へ出られるそうだ。
これだけ複雑な造りになっていれば、城も大きくなるのも道理というわけか。
人が二人ギリギリ通れる隠し階段は長いこと使われていないのか、妙に埃っぽく、そして湿っぽい。明かりも何もないので、シオンハイトが持っているランタンだけが光源だ。普通に怖い。
わたしは、無意識のうちに、シオンハイトの手を握りしめていた。踏み外すのが怖い、というのもあるし、暗闇で何も見えないから、もしかしたらその先に何かいるかもしれない、という不安もある。
しかもこの階段、シオンハイトのいる階から地下まで一直線、踊り場もないので、かなり長い。転げ落ちたらそこで終わりだし、どこまで降りたのかすら分からなくなる。
わたしたちは、自然と無口になっていた。
逃げるための隠し通路なのだから、壁が薄くて音が漏れる、ということはないかもしれないが、ばれないように城を抜け出さないといけないので、ぺらぺら喋るのはふさわしくないし、気が緩んで階段を踏み外すことだけは絶対にしてはいけないので、降りることだけに集中せざるを得ない。
しばらく歩いていくと、ようやく階段が終わった。でも、地下道も光源がなくて、真っ暗なままである。
王城なんだし、電気通せばいいのに、と思うのだが、でも、ばれずに行動する、という点を考えると、階段や地下道の全体が照らされているより、さっと手元で消せる光源の方がいいのだろうか。ちなみに、オアセマーレと違い、リンゼガッドは電気がライフラインとして完全に普及している。
階段と違い、開けているからか、足音が妙に響く。そろそろと歩き、足音を立てないことを気をつけていても、どうしても響いてしまう気がした。
シオンハイトに手を引かれ、しばらく歩いていると、一つの梯子の前で彼は足を止める。シオンハイトの耳が、せわしなく動いていた。周囲の音を聞いているのだろう。
「――……、よし。誰もいなさそう。ララ、ここの梯子を上がるよ」
そう言うと、シオンハイトは先に梯子をのぼる。わたしも後に続くが、長いスカートではのぼりにくい。ドレスではなく、シンプルなワンピースなのだが、丈が長いので、それだけで足をひっかけてしまいそうなのである。
なんとか奮闘し、最後はシオンハイトに引っ張り上げてもらいながら、わたしは地上へと出た。
無事に、王城の周りを囲む城壁の外へ出られたようだ。




