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化粧とか、カラコンとか、ヴィッグとかそういうものがあればなんとかならないだろうか。
オアセマーレには、カラコンもヴィッグもなかった。目が悪くなれば医療系の『異能』で治癒してしまうから、コンタクトのような目に異物を入れるという発想がなくて存在しない。そもそも眼鏡自体もない。
ヴィッグも似たような理由で、『異能』を使って髪を伸ばすのが難しくないから、おしゃれのためのものは存在しなかった。医療系の『異能』でもどうしようもないくらい毛根が死んだ人のためのカツラくらいしかないのだ。
けれど、人間の国とは違って、技術が進んでいるリンゼガッドなら存在しないだろうか。
でも、今シオンハイトに聞くのはためらわれるな……。医療系の『異能』できれいさっぱり、後遺症もなく怪我を治したとはいえ、精神面のケアはしていないようだったし、事故を未然に防げなかったからという理由で、なにかしら騎士団の方で処理しないといけないことがあるかもしれない。
勝手に行動するほうが、シオンハイトにとって負担になりそうだから、黙って行動するつもりはないが、でも、まだ何をするか明確に決まっていない段階で相談するのは、ちょっと抵抗がある。
――シオンハイト?
わたしはふと、自分の髪を、一束手に持って、見る。パッと見た感じでは茶色に見えるのに、光に透かして見ると、赤く見える髪。
「――…………」
わたしはその髪の先に、異能を使ってみる。紫ではなく、空のように青い毛先に変わった。もう一度やりなおすと、今度は真っ赤に染まる。色を重ねるときとは違って、根本から色を変えるので、何度でも自由に色を変えられそうだ。最終的にどの色になるかとか、もう面倒だから一回白くするかとか、考えなくていい。
一通り色が変わったのを確かめると、わたしは元の色に戻す。戻す、と言っても、元の色に近いものにするだけで、完全に元通り、とはいかないのだが、一見して、先ほどまで違う色だったとは思えない。自分で変えておきながら、どこがどうだったか、もう見分けがつかない。
これ、ヴィッグの代わりにならないかな。
少なくとも、髪色は変えられるし、ばっさりと髪を切ってしまえば、印象も変わるだろう。
目だって、色を変えられるはず。流石に鏡がないと、見えないから今は変えられないし、変化したか確認ができないけど。
目と髪の色が変わるなら、肌にだって色をのせられる。水をぶっかけられたって絶対に落ちない化粧ができる。ほくろだってつけ放題だ。
――やろうと思えば、別人になれるのでは?
わたしの『異能』は、ずっと使い物にならない、ハズレ『異能』だと思っていた。
でも、まさか、こんな使い道があって――人生で一番二番を争うくらいの分岐点で、役に立つ日が来ようとは。
わたしが色をつける『異能』であることは、女王様も知っているだろう。侯爵令嬢だから、どんな『異能』なのか、検査して、報告する義務がある。
ただ、それが、色を変える『異能』に変化しているかどうかまで把握しているかは分からない。
あの女王様のことだから、知っているかもしれない。でも、それと同じくらい、知らない可能性もあった。
それならば、その知らない可能性に賭けて、行動するしかない。




