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『異能』で治療を受けているのは、人間ばかり。床に倒れている獣人は、誰も見向きもしない。
「なんで……」
わたしは思わず呟いてしまったが、少し考えれば分かる。
救助できる人間が少ないのだ。
技術の全ての根底に『異能』があり、全て『異能』に依存しきっている文化のオアセマーレに医学知識のある医者はほとんどいない。よって、全体的に、他国よりも医療従事者が少ないのだ。
普段ならば、それでもよかったのかもしれない。
でも、戦争に駆り出された医療系の『異能』持ちも少なくなく、現状として、確保している数はぎりぎりなのだろう。
そして、その切羽詰まった人数で、誰を助けるか、となれば――敵国の獣人ではなく、自国の人間を優先する、ということだ。
わたしはパニックになって、その場に崩れ落ちてしまった。
助けに行きたい気持ちはある。でも、わたしが助けに行ったところで、何もできないから自己満足でしかない。かといって、ここで落ち着いて様子を見ることもできない。シオンハイトが無事なのか、怪我をしていたら助けてもらえるのか、分からなくて、不安に押しつぶされそうになってしまう。
シオンハイトだけではない。
もし、この場で、死人でも出たら――休戦したばかりにも関わらず、戦争の熱が再燃してしまうかもしれない。
せめて、立たねば。
そう思っても、下半身に力が入らない。
すっかり腰を抜かしてしまったわたしの耳元に――ささやく声が聞こえてきた。
「――助けて欲しい?」
その声に、バッと振り向くと、女王様がそこにいた。いつの間に。全然気が付かなかった。――いや、フィアに至っては、こんなにもわたしの近くに女王様がいるのに、気が付いていない様子だ。
もしかして、女王様の『異能』なのだろうか。それか、彼女の近しい人間の『異能』か……。
こんな状況にも関わらず、彼女の真っ赤な唇は、弧を描いている。
「助けて欲しいのなら――戦争の原因を突き止めることを諦めなさい」
その一言で、わたしは察してしまった。
ライレグーンの奴隷問題に、この人も関わっているのだと。
母様にばれないように、他人にばれたら『不慮の事故』が訪れる、そうレギーナ様は言っていたけれど――本当なのだと、思い知らされた。
「貴女がうなずくのなら、獣人たちも助けるし、レギーナは健在のまま。失脚はするかもしれないけれど、命までは奪わないわ」
演技にしか聞こえない、悪魔の囁き。この人に、わたしたちの行動は全部ばれていたのか。
どうして。誰が、いつ。アデルかフィア? それとも、わたしがレギーナ様に話を持ちかけられたときには既にばれていた? 彼女の口ぶりからして、レギーナ様が裏切ったということはないだろう。
それに、何が爆発していたのか知らないが、こんなの、すぐに用意できるわけがない。こういう場で護衛につくのは男か、防御系の『異能』を持つ女のみで、爆発をさせるような『異能』持ちがいれるわけがない。
わたしがレギーナ様に話を持ちかけられること自体、見越していたのか。
「どうする? 諦める?」
本当に助けてもらえるのかは分からない。
でも、わたしは、わたしは――。




