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腕を組んだ手の指先をトントンと動かし、何か考え込んでいる様子の王女様。原因は本当に知らないんだけど……。
「――……ライレグーンという国を知っているか?」
「……? ライレグーン、ですか?」
聞いたことがない名前だ。当然、前世の記憶にもない。
心当たりが全くなく、頭にいくつものはてなマークを浮かべるわたしとは対照的に、「なるほど」とレギーナ様は一人納得をしていた。
「では、オアセマーレとリンゼガッドに挟まれた位置にある国の名前は?」
「――……申し訳ありません、心当たりが全く」
地理の授業は全て受けている。
オアセマーレ王国とリンゼガッド王国は国境を一部隣接しているだけで、全部べったりとくっついているわけではない。二つの国の中央に大きな海があり、そこで一部分断されている。
その海自体は綺麗ではあるものの、資産価値自体はそこまでないはずだ。海に隣接している街はそこそこ観光地として栄えているけれど、特別多く魚が取れるだとか、なにか利用価値の高い資源が眠っているとか、そういう話は聞いたことがない。
また、そこの港以外にも、一年中使える港をそれぞれの国が持っているので、相手の海岸側を取ることに、そこまでメリットはないはず。
わたしの態度を見て、もう一度、「なるほど」とレギーナ様はうなずく。一人で納得していないで説明してほしい。
「少し待っていてくれ」
そう言って、ソファから立ち上がったレギーナ様は、本棚から、筒状に丸めた大きな紙を持ってきた。
それを広げると、そこには地図が描かれている。世界地図ではなく、このオアセマーレとリンゼガッド、その他周辺国が描かれた地図――のはず。
「あれ……?」
それを見て、わたしは思わず声を漏らした。
わたしが見たことのある地図と微妙に違うのである。オアセマーレとリンゼガッドの間に広がる海に、ぽつり、と島があるのだ。地図の縮尺的に、そこまで小さい島ではない。
その下に、ライレグーン、と国名が書かれている。
「ここがライレグーンだ」
彼女が指さすのは、その島。
……この地図、本物なのか?
いや、彼女を信用すると決めたばかりで疑うのは良くないのは分かるけれど、わたしが今まで利用してきた地図とはあまりにも違うので、にわかには信じられない。
「この地図は、王城の裏書庫の隠し部屋で見つけたものだ」
「そんなもの、わたしが見ていいんですか!?」
思わず声を上げてしまった。仮に嘘だとしても、凄いスケールである。王城の裏書庫、と言えば、王族以外が入れない場所だ。そこの隠し部屋なんて、とんでもない情報が眠っているに違いない。
「おそらく、母様に知られたら、君だけではなく私にも『不慮の事故』が訪れるだろうな。……だからこそ、他言無用なのだ」
「共犯だな」と笑って見せる王女様。
肝が座っているとかいうレベルの話ではない。




