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「……悪い話を聞かないのは事実。シオンハイトが元気だって言ったのも事実。それをどう思うかは貴女たち次第でしょう」
「信じる信じないの話ではなくて、ありのままの現状を伝えただけ」と言えば、スノーティアは納得いっていなさそうな表情をしつつも、それ以上問うてはこなかった。
乗り越えた……のかな。
一安心したのも束の間。次にわたしへ質問をしてきたのは――一人の夫人だった。
「それで? 何か情報を持ち帰ってこられたのかしら?」
さっきまで手をつけていた紅茶を置き、ゆったりとした笑顔でこちらを見てくる。女王様の一番の腹心。ただ、政治家ではなく、女王様の側仕えだから、今日はここにいるのだろう。
しかし、笑顔とは思えないほどの威圧感。目が笑っていない、って、こういうことを言うのだろうな、と思わされる顔。
「情報、とは?」
わたしは質問を質問で返してしまった。褒められたことではない、と分かっているけれど、わたしは情報を持ってこい、という命令は受けていない。……受けていない、よな?
まるで情報を持ち帰ってくるのが当たり前、みたいな態度をしている夫人を見ると、不安になってくる。
「向こうを出し抜く情報よ。そうね……何か弱みになりそうなものとか、打撃を与えられそうなこととか」
休戦、したのではないのだろうか。と、考えてしまうのは、戦争を体験したことのない、前世の記憶があるからだろうか。たとえ平和な前世の記憶があっても、ある程度戦争の中にいる生活をしてきたから、平和ボケしているつもりはなかったのだが。
このまま国のトップ同士の話し合いを進め、落としどころを見つけて終戦するものだとばかり思っていた。
だから、まさか、こんな、折角休戦したのに、また火種が燃え上がるような話をふっかけてくるとは予想もしていなかった。女王様が望んだことなのだろうか。
「……申し訳ありません。部屋からあまり出ない生活をしていたので、情報と言えるようなものは……」
実際、スパイのようなことをする余裕はなかったので、そう言うしかない。まあ、命じられていたところで、わたしは自由に外へ出る性格ではないから露骨に怪しまれるだろうし、最初からそういう人間だと演じていたところでボロが出る自信しかない。
わたしの言葉を聞いて、あからさまに夫人は、使えないわね、とでも言いたげに溜息を吐いた。
……仮に。
もし、何か情報を握ってしまったとしても――シオンハイトのことを思い出すと、簡単には口にできないと思う。
別にリンゼガッドに思入れはないけれど、シオンハイトは別だ。
わたしが不用意に言った一言で、形勢が大きく変わって、リンゼガッドが大敗し、王族が処刑されてしまったら、と、想像するだけでぞっとする。
――……そんなことを考えていたからだろうか。このとき、夫人にじっと見られていたことに気が付かなかったのは。




