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わたしとスノーティアの仲はあまりよくない。いや、いい、悪い、以前の問題だ。
お母様がスノーティアをわたしに、極力近付けさせなかったし、スノーティアがある程度自由に歩いたり明確な意思を持って行動できるようになった頃には、わたしはめちゃくちゃ人間不信をこじらせていた。
丁度、シオンハイトとの記憶を失い、周りから変な知識を教えられて、それを信じて馬鹿にされていた上に、スノーティアが生まれたことによって、わたしはお役御免になるという陰口を使用人がしていたのを聞いてしまって、かなり性格がねじまがり、一番他人を信用できなかった時期だった。
だから、スノーティアがわたしを気にかけて声をかけてきても、その行動の裏にはなにか考えがあるのだと毎回疑っていたし、そもそも、仲良くなるのが正しいことなのかすら考えあぐねていた。
スノーティアの中でわたしは、誰の話も信じない、周りを警戒してばかりの面倒くさい姉、というイメージが強いのだろう。そしてそれはつい最近までその通りだったし、『異能』で消された記憶を思い出したから、シオンハイトのことを受け入れられただけで、考えすぎて周りを疑う悪癖が治ったのかというと、全くそんなことはない。
――だから、スノーティアにとっても、わたしは信用に足る人物じゃないんだろう。どうせ何を言っても無駄だ、と思っているに違いないし、その評価は間違っていない。
『異能』によって消された記憶を思い出した、という事実を言ったところで、彼女がその話を信じるかと考えたら怪しいし――この場には、王女様がいるので、その話をしてしまって大丈夫なのか、少し迷うところがある。
わたしが『異能』によって記憶が消されたのは確かなのだが、誰がなんの目的で消されたのか、まだハッキリしていないのである。
消された理由が分からないのはともかくとして、誰に消されたか思い出せないのは、確実に二人目の、記憶操作系の『異能』を持つ人間の影を感じる。シオンハイトと過ごした幼少期のことは思い出せるようになったし、当時の感情も、自分のものとして戻ってきたから、一人目の『異能』に消された記憶は元に戻ったと考えられる。
でも、その一人目の顔や存在を忘れさせたであろう二人目のことは、全く分からないのだ。二人目の存在を隠されてこっそりと記憶を消された様子もない。わたしの記憶をいじったのが一人なら、シオンハイトとの過去を思い出したときに、一緒にその人物に対しての記憶も蘇ったことだろう。
こうやって思い出そうと強く思っても頭が痛まないところを見る限り、何かきっかけがあっても思い出せず、『異能』を使用した本人にしか調整できないのだろう。シオンハイトとの記憶をきっかけがあって思い出せたのは、そういう『異能』だったから、と考えられる。強く意識すれば思い出せてしまう程度の『異能』ということだ。
二重に使われた、記憶操作。平民ならまだしも、わたしは侯爵令嬢だ。よほどのことがあったに違いない。
そして、その場合、王女様を始めたとした王族は何かを知っている可能性が高い。
シオンハイトと過ごした子供の頃の記憶を取り戻した、と知られたら、この記憶をまた封じられてしまうかもしれない。
そんなのは、嫌だ。
わたしが記憶を取り戻したことを悟られない、かつ、スノーティアが納得するような言葉を、わたしは必死に考える。




