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……逃げてもいいだろうか?
庭園へと来る前までは、シオンハイトも頑張っているし、わたしもそつなくお茶会をこなして王城の図書館に行こうと思っていたのだが、庭園に来て、お茶会の面子を見てそんな気持ちは全部吹っ飛んだ。
――どうして、スノーティアがここにいるの!?
わたしは変な声を出してしまうところだった。スノーティアがこんなところにいると思わなかったのだ。あのお母様が、わたしが来るお茶会にスノーティアが参加することを許可するとは思わなかったのだ。
久しぶりに見るスノーティア。薄幸の美少女、とでも言うのだろうか。妙に儚くて庇護欲をかき立てる印象は変わりない。
挨拶をして、席へと座る。ちゃんと笑えているか、自信がなかった。こんな恰好で、スノーティアがいて、頬がひきつっている気しかしない。
雑談もほどほどに、すぐに話題はわたしの――というか、わたしたちの生活についてになった。中には、わたしのこの子供っぽいドレスが目に入らないくらい、緊張している面持ちの令嬢もいて。「姉様はお元気ですか」と泣きそうな顔をしている者までいる。
なるほど、お茶会にしてはちょっと人数が多いような気もしたけれど、リンゼガッドに嫁がされた令嬢の関係者か。
リンゼガッドには、わたしを含め四人の令嬢が向かわされた。わたしとディナーシャはあまり家族との仲が良くないから、別としても、残り二人には心配になって様子を聞きに来てくれる姉妹や友人がいるらしい。
とはいえ、わたしは、ほとんど部屋にこもっていたし、嫁いできた令嬢同士で集まることを良しとしていない空気があったから、ほとんど交流はない。現状、元気かどうか、この目で確かめたことはないのだが……。
「直接会ったのは、向こうに行ったときが最後なの。だからはっきりとしたことは言えないけれど、わたし自身は悪いことは特にされていないわ」
……一度しか。
とは正直に言えない。呼び出されて『異能』が変化したかどうか聞きだされて、挙句の果てにはひっぱたかれた、なんて言えるわけがない。他の令嬢がされたかは定かではない。余計な心配はさせるべきではないだろう。
「でも、悪い話も聞かないし、シオンハイトも皆元気だと――」
「――お姉さまは」
お茶を飲んで、ずっと静かだったスノーティアが口を開いた。
「お姉さまは、わたくしの話を信じないくせに、いつでも周りを疑ってばかりいたのに、あの獣人の話は信じるんですの?」
スノーティアの言葉に、わたしは、ぎくり、と固まった。




