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部屋を出て、向かったのは二つ隣の部屋だった。ここがシオンハイト個人の図書室らしい。明かりをつけると、パッと図書室が照らし出される。
大きくない、とシオンハイトは言っていたが、まったくもってそんなことはない。少なくとも、一般的な学校の図書室くらいはある。大きくない、なんて言っていたし、個人のものなら、わたしが前世で住んでいた六畳1Kくらいの大きさかな、なんて勝手に想像していたけれど、そんなわけなかった。まあ、王族じゃあそうか。
「確かこの辺に歴史の教科書が――ああ、あった」
シオンハイトが本棚から一冊の本を取り出す。ぺらぺらとページをめくり、戦争に関する部分を探しているようだ。
オアセマーレの本は『異能』による写本ばかりだから、字は手書きだし、数も多くなく、一冊一冊が貴重品だ。でも、リンゼガッドは印刷本っぽい。文字が手書きじゃない。
こんなところでもリンゼガッドの方が文明としては先を行っている。『異能』は確かに便利だけど、誰でも平均的に使える技術が未発達というのはかなり危険なように思うのだが……。
そんなことを考えていると、シオンハイトが「あった」と声を上げた。
「ほら、このあたりが戦争初期の事柄が書かれている――あれ?」
この世界、言語は共通ではあるが、種族によって微妙に異なる。方言の違いみたいなもので、たまに通じないときがあるのだ。
それは文字も一緒。読めるには読めるのだが、ところどころ普段聞かない言い回しや見たことのない単語がちらほらとあるので、本を見せられたところで、人間が使う文字と違ってスッと頭に入ってこない。
不思議そうな顔をしているシオンハイトは、わたしが完全に読み切る前にパッと本を彼が読みやすいように持ち、ペラペラと前後のページをめくっている。
「これ、原因が書いてないな……専門書じゃないからか? ごめん、ちょっと持ってて」
シオンハイトがわたしに、さっきのページを開いたまま、教科書を渡してくる。
……王族が学ぶ歴史の教科書にも、戦争の原因が書いてないなんてこと、ある?
詳しく書かれていないならまだ納得できるけど、例えば、土地を求めて、とか、資源を求めて、とか、ざっくりした内容くらいは書くものじゃないのだろうか。
わたしはゆっくりと文字を追って行く。
戦争、は、オアセマーレ王国、達、側に、よって、侵略――ん? オアセマーレ王国『達』?
達ってなんだ。なんで複数形なの?
確かにオアセマーレは同盟国があるけれど、どこも戦争が始まってから、後に協力を求めたと言われているのに。
まさか、どこかの国が、最初から戦争に参加していたとでも言うのだろうか。




