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他に考えられるとしたら宗教か……? でも、この世界の宗教は、多少地域や国によって細かい部分にばらつきはあるものの、基本は唯一神で、皆同じ神様を信仰している。だから、例えば、どちらの神が正しい、という理由でぶつかり合うことはない。
考えれば考えるほど分からなくなってきた……。
でも、冷静に考えて、侯爵令嬢であるわたしが戦争の理由を知らないって、おかしな話ではないか?
わたしの国の軍人は、比較的女性が多い。それは『異能』を使えるからである。
だから、『女は戦争に関わらなくていい』という言葉がまかり通らない。わたしは前線に出ない人間ではあったけれど、知ってもおかしくはない。それが誰に都合がいいものであっても、嘘であろうと真実であろうと、何かしら教えられてもいいはずなのに。
わたしがうんうん唸っていると、お風呂から出てきたシオンハイトがベッドに座る。
「どうかした? また頭がいたいの?」
心配そうにわたしの頭を撫でてくるシオンハイト。
……彼は戦争の原因を知っているのだろうか。いや、王子だし、騎士団長だし、流石に知っているだろう。
「その……変なことを聞くけれど、シオンハイトって、この戦争が始まった原因、何か知ってる?」
「何って……オアセマーレから攻め込まれた、って教えられたよ。あくまでリンゼガッドは防衛してるだけだって。まあ、僕が生まれる前から戦争しているから、実際のところ、それが事実なのかは知らないけど」
「……ううん、そうじゃなくて。仮にオアセマーレから攻め込んだとして、その理由は何だと思う?」
オアセマーレが求めたのは、資源なのか、獣人なのか、土地なのか。わたしが言いたいことをようやくハッキリ理解したようで、「それは……」と答えようとしたシオンハイトが、口を閉じた。
「オアセマーレでは何も教えてないの?」
シオンハイトの質問に、わたしは「何も、ではないけれど……」と言葉を詰まらせる。
きっかけになる小競り合い自体が、わたしの生まれる前からある戦争だから、それが当たり前なのだとばかり思っていた。
リンゼガッドから仕掛けられた戦争に、我々は抵抗せねばならない。
そう、教えられた。
逆に言えば、それしか教えられていない。
仮にリンゼガッドから攻め込まれたのが本当だったとしても、リンゼガッドが何を求めてオアセマーレに攻め入ったと教わったのか、と聞かれても、わたしは答えることができない。
それはシオンハイトも同じだったようで。
「――……ララ。少し出られる? 図書室に行こう。僕個人のものだから、そこまで大きくないけど、僕が使っていた教材はあるはずだから」
シオンハイトが立ち上がる。わたしも彼についていくため、ベッドから降りた。




