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王族相手に露骨に態度を出すなあ……。それが許されるほど高位な貴族なんだろうか。
……でもまあ、確かに、まだシオンハイトと一緒じゃないのに自由に外へ出るのは怖いし、強引に引きずり出されることがあるときに、フリードさんが傍にいることはない。この間、無理やり連れ出されてしまったように。
わたしは無意識に頬を撫でる。一週間意識がなかったからか、すっかり治って痛みもない。勢いは凄かったけれど平手打ちだったし、腫れさえひけば、治ったようなものだ。
……あのメイドは、わたしたちの国に恨みがあったのかな。いや、あったに決まっている。わたしをあんな目で見下して、本気でひっぱたいて。あの男だけへの忠誠だけではないような気がした。
嫌だな、別の意味で居心地が悪くなってきた。ここが騎士団の執務室だというのなら、シオンハイトはともかく、二人はわたしに何か恨みがあるに違いない。
「……フリード、お前、オアセマーレに恨みはある?」
シオンハイトが、ふと、そんなことをフリードさんに問うた。わたしの顔色は変わっていたらしい。シオンハイトに気がつかれてしまった。
「そうですね、この書類の山をつくった原因がオアセマーレにあるので、恨んでいると言えば恨んでいます」
――……なんか思ったのと違う。同僚が死んだとか、後輩が殺されたとか、そういう非難はないのだろうか。
また、フリードさんと目が合う。「なるほど」と何かを納得したように呟いた。
「自分の指揮で、オアセマーレやその同盟国の者を何人も殺してきました。軍や騎士団など、呼称は国によって変わりますが、我々を殺すべく動いた人間だけでなく、民間人も殺したでしょう。戦争とはそういうものです。自分だけが向こうを恨むのは都合がよすぎる」
「ただ」と、喋りながらでも手を動かしていたフリードさんの手が止まる。
「オアセマーレの人間が、我々を恨み非難するのであれば、自分にも恨み言をいう権利が回ってきます。何も思っていない、と言うのは嘘になりますので」
つまりは、わたしや、他の王族に嫁がされた数名の貴族令嬢がなにかしら行動したら、フリードさんも思うように動く、という、ある意味で忠告だろうか。
でもやっぱり、彼のように考えられる人は、本当に少ないだろう。リンゼガッドの人間だけでなく、オアセマーレやその同盟国の人間にもそれは言えること。
こんなんで、どうやって両国の仲を取り持てばいいのだろう。
既に仕事へ戻ったフリードさんが手を動かし、カリカリとものを書く音が響く室内で、わたしはそんなことを考えたのだった。




