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シオンハイトの執務室は、机が三つほどある、小さな一室だった。二つの机が向かい合っていて、一つがお誕生日席のような場所にある。壁際には装飾のない本棚がずらっと並んでいる。王族が出入りする場所にしては実用性重視な感じで、同時に、かなり古ぼけていた。
……てっきり、シオンハイト一人で使っているものだと思ったから、まさか複数人で使うものだとは想定外だ。
正直めちゃくちゃ気まずい。
向かい合った机の方ではなく、一つ外れた机の前に座るシオンハイトとは別に、向かい合う机にも人がいる。
シオンハイトの斜め後ろに席を用意されたわたしから見て、右側に座る男性は、犬の獣人のようだった。褐色肌に短い黒い髪。大きな耳と体格もあいまって、ドーベルマンっぽい。
彼の両脇には山のような書類があって、鬼気迫る表情で何かを書いて処理している。腕が動くスピードが変わらないのはまるで機械のようだ。
左側に座る少年は、すっかり突っ伏してダウンしている。書類の山の高さはドーベルマン(暫定)の彼と変わりがない。耳毛がふわっふわしているのが目立つが、肝心の耳はぺしょっと伏せている。
――わたし、完全に邪魔では?
思い切り修羅場にしか見えないところにのこのこと来てしまった。シオンハイトの周囲から慣れていくにしたって、タイミングが悪すぎる。もっと閑散期に行くべきだったか。
そういえば、わたしが気絶する前は、シオンハイトが忙しい時期だと言っていたっけ。わたしが意識がなかった一週間、シオンハイトが仕事を全部放置していたとは考えたくないけど……。え、騎士団の仕事って、こんなにたくさん書類仕事もあるものなの?
てっきり、体を動かして、訓練をするのがメインだとばかり思っていた。シオンハイトが前線に出ることはそうそう薙いだろうから、書類仕事メインになるのはわかるけど……それにしても多すぎない? それとも、戦争がつい先日まで行われていたから、それの事後処理とかがあるのだろうか。わたし、絶対ここにいたらまずいよね。敵国の人間だもんね。
とにかく部屋の外に出なきゃ、という気持ちが強すぎて、あまりにも考えなしな行動をしてしまった。
「シシィ、起きろ、働け」
低い、響くような声。ドーベルマン(暫定)の彼の言葉のようだ。……少年の方は、シシィ、という名前なのか。自己紹介もなく、「今日はララがいるからね!」とうきうきでわたしを紹介した直後、シオンハイトは仕事に移ってしまったので、今名前をようやく知れた。
自己紹介もする余裕がないほど仕事が切羽詰まっているようだ。……やっぱり来るタイミング間違えたな。
そんなことを考えながら彼らを見ていると、ばちり、とドーベルマン(暫定)の彼と目があってしまった。




