51
シオンハイトの気が済む頃には、わたしはすっかり息が上がり切っていた。キスって、こんなに体力使うものだっけ……?
わたしのほうは満身創痍と言ってもいいくらいへろへろなのに、シオンハイトはリラックスしたのか気が緩んだのか知らないが、少し眠そうな表情をしていた。
わたしは息を整えながら、根性でベッドに上がり、寝ころぶ。シオンハイトにベッドへ座っているところを押し倒され、ほとんど寝そべっているようなものなのに、脚をベッドの上にあげるだけでも疲れる。
「――ほら、もう寝ようよ」
「……ララが鬼だ……」
「寝たくない」というシオンハイトだったが、目はすっかりとろんとしている。寝ろ。
しかし、ベッドに寝ころんだシオンハイトは、わたしに抱き着く。
「ちょっ……」
「……ちゃんと寝るってば。分かってる。流石にそろそろ本気でヨルクに怒られる……」
「ヨルク?」
聞いたことない名前を聞き返すと、第三騎士団の副団長の名前らしい。そりゃあ、こんなに濃いクマを作っていたら、誰だって心配するだろう。……その原因はわたしなんだけど。
わたしの胸に顔をうずめているシオンハイトが、深く息を吸う。匂いを嗅ぐな。抱き着かれるのは構わないけれど、風呂あがりでもないのだから、匂いを嗅ぐのはやめてほしい。しかも、一週間寝た切りだったんだから……。一週間意識がなかった、とはいえ、体に不快感があまりないので、多少は拭いて綺麗にしてくれてたのかもしれないけども。
シオンハイトの頭を引きはがそうと手を伸ばすが、彼の吐き出した息が震えて聞こえて、わたしの手は止まった。
「――夢じゃないよね」
彼の声は震えていた。わたしの胸元には、濡れた感触。また泣かせてしまった。
「夢じゃないよ」
わたしは彼の頭を軽く撫でる。ふわふわの毛並み。獣人だからか、人の髪の毛というよりも、動物の頭を撫でているような感触だった。
「そんなに泣くくらいなら、最初から全部言えばいいのに」
「だって、ララって呼んだら『初対面で馴れなれしいなこいつ』って目で見るんだもん。絶対言っても信じなかったでしょ」
否定できない。というか、まさにその通りである。自力で思い出せた以上、何か強いきっかけがあれば『異能』で消された記憶を取り戻せたとは思うのだが、全部説明されても思い出せなかったとき、絶対シオンハイトの言葉を信用することはできなかったと思う。
なんなら、わたしを手なずけるためになにか言い出したぞ、くらいに思うかもしれない。
「……ねえ、ララ。どうしてそんな風になったのか、聞いてもいい? 君、昔は結構素直だったでしょう」
……確かに、シオンハイトと一緒にいたあの頃は、素直になんでも信じていたと思う。転生したばかりで、まだ前世の意識が強かった、というか、『自分が生まれた世界』ではなく、『どこかの異世界』という認識だったから、何でもかんでも、そういうものなんだ、と納得してしまっていたのだ。
今とは正反対である。
「別にいいけど……面白い話でもないよ」
寝物語にはふさわしくないと思うのだが。




