05
結局、わたしが出されたスイーツに手をつけないまま、彼は仕事に呼び出されて部屋を出て行ってしまった。
一人取り残されたわたしは、座っていたソファの上に、そのまま寝ころぶ。テーブルにはもう色とりどりのお菓子は載っていないのに、すごく甘い匂いが残っているような気がする。
残されたスイーツは全て回収されていった。誰かわたしの代わりに食べてくれていたらいいけれど、もしかしたら捨てられてしまっただろうか。もったいない。
きらきらと輝いていて、可愛くて、おいしそうなお菓子たち。でも、流石に、こんな状況で口にしようとは思えなかった。こんな場所でなければ、目を輝かせて食べたというのに。
……いつまでも黙って、シオンハイトの与えてくるものを突っぱねていられるとは思わないし、それが正しいとも言えないけれど、それでも、どうしても警戒してしまうというか。
わたしの他にも、この国へ嫁がされた令嬢はいる。でも、彼女たちが今どうしているかは分からない。わたしと同じように臣下に下った王族に嫁いだ者や、政治の中枢に関わる大臣の家の者と結婚した者がいる、とは聞いているが、どの家に誰が嫁いでいったのかは知らない。
わたしの入浴を手伝う使用人に聞いても教えてもらえないし、はぐらかされるばかり。向こうもわたしたちが集まるのを警戒しているのか、会わせてもくれない。
休戦、と言っても、完全に和解したわけではないから、情報が流れないように規制するのは当然のことだとは思うけれど――誰一人として信用できる相手がいない場所で一人、というのは、非常にストレスだ。
せめて、シオンハイトのことが、少しでも理解できたらいいんだけど。
敵国の女だから冷たくあしらうとか、停戦の証の結婚だから義務的に接してくるとか、そういう風だったら分かりやすい。
でも、こんなにも、まるで付き合いたてのカップルかのような温度で好意を伝えてくるような行動をとられると、どうしたらいいのか、本気で分からない。
好意を受け取って彼と仲良くするべきなのか、それとも警戒を続けるべきなのか。
ただでさえ、戦争なんて、前世では、ほとんど他人事だったのに。そんな人間だったのに、最適解が分かるわけもない。
そもそも、彼に好かれる理由なんてないし、わたしと仲良くなったところでシオンハイトにメリットなんて……――。
「も、もしかして、わたしの異能が目的なのかな」
思い当たることと言えば、これしかない。
この世界に生まれたことによって、手に入れた異能力のことしか。