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あ、シオンハイト、泣きそう、と思ったときには、すでにシオンハイトの涙がわたしの頬を濡らしていた。
「――……初めて会ったときのこと、覚えてる?」
「……わたしはシオンハイトのことシオン『ちゃん』って言って、性別間違えた」
「じゃあ、僕がロマンス小説を読むきっかけになったのは?」
「わたしが面白いって勧めた小説がロマンス小説だったから」
「大きくなったらやりたいことの話は?」
「わたしはいろんなお菓子を一度に食べてみたいって言ったし、シオンハイトはわたしと一緒に花を見に行きたいって言った」
一つひとつ、ゆっくりと、大切に記憶の確認が行われる。
初めて会ったときのシオンハイトは、中世的で、幼さが女の子らしさを醸し出していて、わたしはてっきりボーイッシュな女の子だと思ったのだ。
ケーキを食べさせて間接キスをしたとき、ロマンス小説なんて読むんだ、と思ったけど、あのジャンルを勧めたのわたしだ。転生して、女児が好むような恋愛小説を読んでもおかしくない年齢だったから、周りに馴染めるかと考えて読み始めたら、思いのほか面白くて、シオンハイトに勧めた記憶がある。
二人で語った、将来の夢。シオンハイトは臣下になって国王を支えることが決まっていたし、わたしはわたしで、政略結婚で誰かの元へ嫁いで子供を産むものだと思っていて、将来なりたいものは願っても叶えられなそうだから、やりたいことを話そうってなったのだ。それなら、叶えられるかもしれないから。
……たくさんお菓子が食べたい、なんてまさに子供が考えそうなわたしの思い付きを、本気にしてシオンハイトは叶えようとしてくれていたのか。人間の女の子が好きそう、なんて、ただの誤魔化しだったのかもしれない。
紙ナフキンの花だって、ちゃんとした花ではなかったけれど――わたしが描いた花を、彼に見せたのは、本当に久しぶりのことだった。
……もしかして、シオンハイトの用意してくれる服が、妙にフリルとリボンが多くて、甘ったるい印象を受けるドレスばかりなのは、昔、別れたときのわたしの年齢の印象で、彼の中のわたしが成長していないからだろうか。
「――……やくそく、おぼえてる?」
ぼたぼたと、シオンハイトの目からこぼれる涙の粒が大きくなる。涙がこぼれた、どころではなく、本格的に泣き始めた。彼の声も、震えている。
わたしはそっと、彼の涙をぬぐった。
「結婚して、戦争を辞めさせようって約束でしょう? 一緒に両国を仲良くさせようって」
彼の目が、大きく見開かれる。全部、全部思い出したことを、悟ったのだろう。
わたしは、シオンハイトとの全てを忘れていたが、それも終わりだと。




