43
前世の記憶はあった。自意識も、前世に近い。それでも、歳感覚というのは体の年齢に反映されるのか、『シオンくん』を年下の男の子、と思ったことは一度もなかった。まあ、元より、前世でいい歳だったから大人だったか、というとそうでもなかったけれど。
だからこそ、前世のわたしから見たら子供でしかないシオンくんに恋をすることも、何らおかしな話ではない。少なくとも、わたしの中では矛盾しなかった。
「……よかったら、ララ、シオンくんに、絵、描いてあげようか?」
だから、シオンくんに気に入られたくて、当時のわたしはそんなことを言ったのだ。
「ほんとっ?」
幼いわたしが期待して想像した通り、シオンくんは目をきらきらと輝かせる。耳がせわしなく、ぴこぴこと動いている。
「うん。今度ね、オアセマーレのお祭りがあるの。シオンくん、行けないでしょ? だから、ララが描いてくるね」
「ありがとう!」
シオンくんが、弾けるような笑顔を見せる。……やっぱり、シオンハイトに似てる、よな。
――……それにしても、お祭りの絵。思っていたのと全然違う理由で描いたものだった。
あの誰にあげたのか分からない絵は、わたしの予想通り、直接シオンハイトにあげた絵だったのだろうか。もし、シオンくんがシオンハイトなら。
急に幼い頃の記憶を体験させられ、映像を見るだけだったけど、いろいろと思い出してきた。
そうだ。わたし、幼少期に、獣人の男の子に会ってたんだ。
それどころではなく、シオンくん以外にもたびたび、獣人を見かけていた。祖母の家で。
実母の夫の――つまりは、実父の実家が、裏でこっそりと、獣人の保護活動みたいなことをしていたのだ。今思えば、かなり危ない橋を渡っていたようだけれど、戦時中にどさくさにまぎれて奴隷にするために攫われてきた獣人の子を解放する活動をしていたのを、今、思い出した。実母もその活動に参加していて――そうだ、それでお母様と仲が悪かったんだ。実母は獣人も同じ『人』で仲良くしたい、という考えの持ち主で、養母はオアセマーレの典型的な人間至上主義の人。思想の違いでよく喧嘩していたはずだ。
一度思い出してしまえば、するすると記憶が蘇ってくる。随分と多くの記憶を消されているようだ。
実父の実家に遊びに行く頻度は結構なものだった。その家にいたときの記憶をまるっと消されているのなら、かなりの量の記憶を消されているに違いない。
よくもまあ、これで、幼少期からの記憶に自信があると思い込んでいたものだ。
ほとんど記憶を忘れさせられているというのに。
ぱちぱちと、短い瞬きがまた繰り返される。そして、場面が変わる。
今度のわたしは、別の絵を持っていた。
――祭りの絵。
シオンハイトが廊下に飾ってた、あの絵を、わたしは、持っている。




