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瞬きが数度されると、場面が変わる。……どうやら、『異能』で消された記憶は、飛び飛びで再生されるらしい。それでも、思い出そうとすれば、頭が痛むことなく、さっきの続きから、何があったのか思い出すことはできる。
今、わたしはどこかの扉の前にいる。先ほど、部屋の中で絵を描いていたら、使用人に声をかけられて、わたしは客間に移動することになった、らしい。
――……扉を開けるメイドのエプロンドレスの端に刺繍された紋章に見覚えがある。実母の夫の母親――つまりは、父方の祖母の家の紋章のはず。……なんでこんなところにいるんだっけ。
「――シオンくん!」
わたしが声をかけると、客間にいた男の子が、パッとこちらを見る。――ピン、と、耳を立てて。
――獣人だ。
『シオンくん』は獣人の男の子だった。しかも、虎。
顔はシオンハイトに似ていて、幼い頃はこういう顔だったのか、と納得させられるような造形。……年齢も、多分、今のシオンハイトから逆算したらこのくらいの年の子かも、という年代の子。
しかし、シオンハイトとは違い、綺麗な金髪と黒の縞模様のしっぽがぴんと立っている。髪も金髪だ。シオンハイトのようにホワイトタイガーを思わせるものではなく、普通の虎のカラーリング。
……シオンハイトじゃない、のか?
でも、顔も名前もここまで似て、全く関係のない別人、ということはあるのだろうか。
記憶の中のわたしは、彼の隣に座って、描いていた絵を彼に見せる。
「庭で綺麗な薔薇が咲いたの! シオンくんは外に出られないから、代わりにララが描いてきたよ」
わたしが絵を見せると、男の子は「わあ!」と声をあげた。
「ララ、凄い! 綺麗な絵だね」
……流石に声で判別することはできなかった。明らかに声変り前の、高い子供の声と、既に成人した年齢のシオンハイトの声では、比べたところで同一人物のものか分からない。ずっと聞き続けていたらまた違うのかもしれないけど……。
「僕、ララの絵、好きだよ。綺麗で、温かい感じがする。ララの『異能』って、すごく素敵だよね。いろんな色を塗れて、可能性の塊みたい」
ぎゅう、と、胸が締め付けられる感覚。これは、今のわたしじゃなくて、記憶の中のララが感じている感覚らしい。自分のことのようで、同時に、どこか他人事のような感じがした。夢の中で夢だと分かっているときに感じる痛みに似ていた。心で感じる、というよりは、頭でそういうものだと理解しているような感覚。
――思い出した。
わたしの、ラペルラティアの初恋の相手は、この『シオンくん』だった。
いつでもわたしの『異能』を褒めてくれる、その笑顔が好きだったのだ。




