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シオンハイトよりは若干短い髪は、暗いオレンジと黒の二色。しっぽもそう。彼は普通の虎らしい。つり目がきつそうな印象を与える顔だが、わたしを見下しているのが丸わかりな表情なので、印象が悪いのはつり目のせいだけではないと思う。
「お前がシオンハイトの女か」
明らかにわたしに話しかけられているトーンだったが、無視。急に呼び出してきて、自己紹介もなしに偉そうな喋り方をする奴に愛想よくする必要がどこにある。こいつは絶対一生信用しない。
わたしがしらーっと黙っていると、男はわたしが無視したのを気にせず話を続ける。
「お前には『異能』の変化がなかったと聞いているが、嘘だろう?」
嘘なものか。わたしの『異能』は、使い勝手がいまいち良くないままだ。シオンハイトは「結構使い勝手が良さそうだね」と言ってくれたけど、わたし自身の評価はあまり変わっていない。色を塗り替えることができたら、確かに使い勝手はまだいいのかもしれないけど。……それが貴族令嬢にとっていいかは別として。
「シオンハイトも人間の言うことをこうも簡単に信じるとは……。お前は我々を信用していないのだから、『異能』に変化があっても言うわけがないだろう。なあ?」
「……」
その言葉は否定できない。事実だからだ。もしも『異能』に変化があったとしても、わたしは誰にも言うつもりがなかった。敵国の人間だから、とかではなく、たぶん、オアセマーレにいても。
ただの色をつける『異能』でも、相手が想定していたものとは違う効果が出せるようになるなら、それは切り札になるはずだから。
とはいえ、わたしは『異能』が変化すること自体知らなかった。確かに、たまに『異能』の効果が変わった、と言う令嬢の噂を聞いたことはあるけれど、それはあくまでその『異能』を変化させた彼女自身が新しい使い道を思いついただとか、できないと思い込んでいたものができると気が付いただけだとか、そういうものだと思っていた。
わたしなら、本来どんな色でもどんな場所でもつけることができるはずなのに、十二色しか使えないとか、生き物には使えないとか、そういう風に決めつけて、自分の『異能』の範囲を無意識に狭めてしまうものだと。
お金がもったいないと、もしくは、使えない『異能』だと現実を突き付けられたくないと、『異能』を鑑定しない女性はそれなりの数いる。どんな国でも、王族や公爵、侯爵令嬢、一定の職業の人間には鑑定が義務づけられているが、基本的に鑑定をするかどうかは自由だ。
だから、自分の『異能』に詳しくない、という女は少なくないけど――わたしは違う。
侯爵令嬢だったから『異能』の鑑定を受けているし、本当に変化はない。
ただ、そう言っても信じてもらえないのは、男の顔を見れば一目瞭然だ。
人の話を聞き入れない目をしている。
自分がそういう人間だから分かるのだ。




