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それでも、貰ったからには使った方がいいだろうか、と思いながらも、構図が思いつかないので、結局ぱらぱらとめくるだけになっている。めくっていても全然楽しくはない。端からみたら、無表情で、白紙しかないスケッチブックをめくっているというのはホラーでしかないだろう。
……一枚くらい、何か描くか、とわたしはスケッチブックの最初のページを開き、残りのページをくるっと後ろに持ってきた。
――そのとき。
コンコンコン、と扉がノックされる。……黙っていても、何か言葉はない。
シオンハイトは、いつもノックして、わたしの言葉を待たずに、三十秒くらい経ってから勝手に開ける。わたしが返事をしないと分かっているからである。
しかし、今日は、扉が勝手に開けられることもなく、扉の向こうから言葉を投げかけられるわけでもない。
……扉の向こうにいるの、シオンハイトじゃない?
わたしは、じい、と扉を凝視してしまった。――開かない。
わたしは常にこの部屋にいるので、使用人が堂々と掃除に来る、ということもない。シオンハイト曰く、基本的にはわたしが部屋に隣接している風呂場で入浴を済ませている間に掃除をしているらしい。特別散らかしているわけでもないので、すぐに終わるのだとか。ちなみに風呂掃除はお風呂が終わった後に、そのまま入浴を手伝ってくれた使用人が掃除している。
だからか、わたしはシオンハイトの階層に努める使用人をあまり見たことがない。せいぜい、シオンハイトがお菓子をもって遊びに来るときに配膳している人か、食事を持ってくる人くらいだ。使用人では、入浴を手伝う使用人が一番接する時間が多いが、今は風呂に入るような時間ではない。
それでも埃はたまるものなので、「館から外に出られるようになったら、その間にちゃんと掃除をしてもらおうか」という話は、シオンハイトから聞いている。一応。
……でも、今、シオンハイトもいないのにわざわざ来るか?
――コンコンコン。
扉が再度、ノックされる。
わたしは完全に警戒しきって、声を出すことが嫌になっていた。扉の先にいるのが誰か分からなくて、どういう反応をしたらいいのか判断に困ってしまったのだ。
わたしは、使用人をあまり見たことがない。なので、当然、使用人の顔も覚えていない。入浴時に一緒になる人しか見分けがつかない。
勤続何十年というベテランメイド、最近働きだした新人メイド、はてはメイドに変装した不審者など。みんな同じに見えてしまうのだ。
シオンハイトがそれを分かっているから、わたしが一人でいるときに、誰かを仕掛けたりするわけがない。彼のことを完全に信用しきったわけじゃないけれど、ある程度思考回路は分かってきた。
わたしの信用を損ねたくないから嘘をつかない、というあの言葉が本当ならば、今ここに、シオンハイトが誰かを部屋に行かせるわけがないのだ。




