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ディナーシャ嬢が『異能』で作ったという本物そっくりの偽札を見せてもらってから、数週間。最近、シオンハイトがおやつの時間に来なくなった。
結構な頻度では来ていたけれど、元より確実に毎日来ていたわけではない。それでも、三日以上空けることはなくて、現在、シオンハイトがわたしのところに日中顔を出さなかった連続日数を毎日更新しているところだ。
なんでも、仕事が忙しくなる時期で、抜けて出られないくらい、書類仕事が溜まるらしい。どこにでもそういう時期はあるんだなあ、と思うと同時に、今までわたしのところにふらふらと遊びに来ておいて、ちゃんと仕事もこなしていたのか、と驚きを隠せない。
夜遅くまで残業しているような形跡はないし、彼が団長を努めるという第三騎士団の定時が一体いつなのかは知らないが、夕食は必ず一緒に食べている。
……もしかして、シオンハイトって、わたしが思っている以上に有能な人材なんだろうか。別に、彼のことを特別無能だと思ったことはないけれど……。
そんなことを考えながら、わたしはシオンハイトから貰ったスケッチブックを、ぱらぱらとめくった。一枚も使われていない、真っ白な新品のスケッチブック。
わたしの『異能』の力を聞いて、シオンハイトがくれたものだ。「これから忙しくなって、構えなくなるから暇つぶしにでも使って」と。
……わたしが絵を描く人間だと、知ってたのかな。
絵を描く? と聞いてくることもなく、シオンハイトはわたしにスケッチブックを渡してきた。たとえ、色をつける『異能』を持っていたとしても、絵を描く能力はまた別なので、画力がないと、色を上手くのせられず、綺麗な絵にはならない。勝手に絵を描いてくれる『異能』はまた別物だ。
迷いなくわたしにスケッチブックをくれた、ということは、わたしが絵を描くと思っていたのだろう。シオンハイトに渡した紙ナフキンは、どちらも『絵』というよりは『記号』みたいなものだったので、あれを見て絵を描くのが好きだと見抜けたかは怪しい。
……それとも、単純に、『異能』に詳しくないから、イメージしたものをそのまま色をつけることで『異能』で絵を描くことに繋がると思っているのだろうか。
こればかりはあり得ることだ。『異能』は基本的に人間の女にしか現れない。時折男にも発現するらしいが、それにしたって現れるのは人間。
獣人は『異能』を持てない。
だから、イメージで『異能』を考えていてもおかしくはないんだけど……。
それでも、何か描く気にはなれなくて、ぺらぺらとスケッチブックをめくっている。
ここに来たばかりのころは、絵が描きたいと現実逃避していたのに、いざそのチャンスがめぐってくると、なかなか簡単に手が出せなかった。




