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それを喜んで受け取るシオンハイトを見て、猛烈に罪悪感がわいてきた。
わたしはもう一枚紙ナフキンを取ると、今度は適当に、花の絵の形に色をつける。適当な縞模様よりはまだちゃんとした絵だ。
「これもあげる」
そう言って、シオンハイトに紙ナフキンを渡すと、彼は分かりやすく顔を輝かせた。
――でも、わたしはひょいと、その紙ナフキンを、シオンハイトが受け取ろうと伸ばした手から離した。
「ところで――『ちゃんと見た』って、なに?」
彼は一国の王子で、例え騎士団長とはいえ、戦争の前線には出ないだろう。むしろ、会議室等で指示を出す立場。だから、戦場に出なくて『異能』を見たことがない、というのも分かる。生まれが獣人だらけの国で、人間の女性に会うことが滅多にないというのもあるから、『見たことがない』というのは理解できる。
でも、『ちゃんと』って、なに?
初めて見た、というリアクションにしては、何か変だ。違和感がある。
わたしが問いただすように聞くと、シオンハイトは分かりやすく動揺を見せた。
「え、ええと……あの……な、内緒、っていうのは、ダメ、かな?」
誤魔化すようにシオンハイトが笑う。下手くそな笑顔を見せたが、わたしがそれで納得しないのを感じたんだろう。気まずそうに、目線をそらされた。
「……君に、嘘をつきたくないんだ」
そう言うシオンハイトの耳が、少し垂れている。
「だって、少しずつララが話すようになってくれて、僕の用意するおやつも食べるようになってくれて、まだ完全に信用してくれたわけじゃないっていうのはわかっているけど、最初の頃に比べたら、ずっと前に進んでいるとは思うんだ」
心を開いていっている自覚はあまりなかったけれど、そう言われてみると、確かにそうなのかもしれない。まだ完全に信用したわけじゃないけど、少なくとも、名前も分からないような使用人よりは信用している、のかも。これだけ顔を合わせて話をしていれば、多少は。
「でも、今、ここで誤魔化して、嘘をついたら、そのささやかな信頼が駄目になっちゃうと思って……。でも、教えることはできないから、内緒」
ここで、あえて考えを全部わたしに教えて、その上で詳細を語らない、というのは、彼なりの誠意なんだろう。
わたしは仕方なしに、「内緒」と言うシオンハイトの言葉を受け入れることにした。いつかは話してくれるのだろうか。それまで、わたしと彼の関係は、変わることはあるのだろうか。
わたしから、新たに紙ナフキンを受け取って、頬を緩ませるシオンハイトを見ながら、そんなことを思った。




