03
死刑宣告にも等しい言葉をお母様から聞いて数か月。死ぬだけではなく、その前に痛めつけられたり辱められたりすることすらも覚悟して、リンゼガッド王国にやってきたのに――想像とは全く違う生活がわたしには待っていた。
「ララ、こっちはロサッカの実と花びらを使ったケーキで、あっちはノスナットの実を砕いて練り込んだクッキー、それにアルセルゼのパイもあるよ!」
少女趣味、と言ってしまっても過言ではないほどのふりふりでリボンが一杯ついたドレスを着せられ、ふかふかのソファに座らされ、テーブルの前にはずらりとお菓子が並ぶ。そして、隣に座る男は、楽しそうに、一つひとつ、テーブルにあるお菓子の説明をしてくれた。
イメージしていた生活と、まっっっったく違う。いや、いい歳してこんな幼女が喜んで着るようなドレスを着せられているのはある意味では辱めだけど。わたしが思い浮かべていたのはそういうのじゃない。
死ぬことすら想像の中に入っていたけれど、こんなにも歓迎されているのは全然予想していなかった。だってわたし、リンゼガッド側から見たら、敵国の貴族の女だよ。しかも、最後のギリギリまで結婚相手を見つけられなかったような余りもの。いや、婚約破棄云々の事情を彼は知らないかもしれないけど。
「ララは甘いもの、嫌い?」
ララ。わたしの名前、ラペルラティアから取った、わたしの愛称。わたしをララと呼ぶこの男が、わたしの夫となる人らしい。
リンゼガッド王国第三騎士団団長。シオンハイト・ネル・リンゼガッド。この国の王子は、王太子が公務の引継ぎに入ると、残りの王子は王城勤務の長となるらしく、王位継承権こそなくなったが、第四王子らしい。
名前と、肩書と、立場しか知らない人。
それなのに、どうしてここまでわたしに好意的なのか分からない。百歩譲って友好国なら分かる。でも、休戦したとはいえ、つい先日まで戦争をしていた国の貴族相手にこの対応。
これ、お菓子になにか盛られているんじゃないの? 怖くて食べられない。
戦争の停戦の証として贈られた、可哀想な女に、最後くらい、いい思いをさせてやろうという慈悲なのだろうか。なのだろうか、というか、そうとしか考えられない。
わたしが何も言わず、どのお菓子にも手を伸ばさないのを見て、男――シオンハイトが黙る。そして、さっきまで揺れていたしっぽが、ぺしょ、と彼のテンションの下がり幅を分かりやすく現すように、だらんと下がった。
――そう、しっぽ。しっぽである。
わたしの転生した国、オアセマーレ公国には人間しかいなかったが、このリンゼガッド王国はその逆、獣人しかいない国。
その国の王子であるシオンハイトもまた、まぎれもない獣人だった。