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シオンハイトの顔は見えないが、彼のしっぽは毛が逆立って膨らんだりしていないし、垂れさがってもいない。ということは、別に、怒ったり、急に体調が悪くなったりしたわけじゃないということだろう。
獣人のことは全く分からないし、虎に詳しいわけでもないので、完全に前世の猫動画の知識でしかないのだが。
「ラ、ララが初めて食べてくれた……」
声が若干震えている。感涙を流している、とかではないよね。違うよね? 流石に。
「……ついでに言えば、間接キスした……ッ」
「――あ」
そこは全然意識していなかった。シオンハイトが使ったスプーンだから、新しいものよりは安全だろう、と思って使ってしまったのだが。深く考えていなかった。
というか、王子でも間接キスとか気にするんだ。それもロマンス小説で学んだのだろうか。
「――……」
反応が、本当にわたしに振り回されているというか、この部屋にいる彼の中心はわたしであると、言われなくてもひしひしと伝わってくるようだった。この部屋の外にいる彼を見たことは、最初の、この城に到着したときくらいだが。……でも、本当に、最初からわたしに対しては、こんな感じだった気がする。リンゼガッド王国に到着して、わたしを出迎えてくれたときから。
これが完全に演技でなければ、彼がわたしに危害を加えることはないのだろう。
でも、だからこそ、逆に疑念が沸いてしまう。
――この人は、どうしてここまでわたしに好意を抱いて、わたしのために行動してくれるんだろう、と。
自分の容姿に自身があるわけではないが、人の好みはそれぞれだから、と一目惚れを疑ったことはある。
しかし、その後の対応が、いろいろ用意してもらっておきながら黙って無視、という印象最悪なものだし、そもそも、一目惚れ、と言うには、初対面からいきなり好感度マックスで、以前からわたしを知っているような空気を感じた。
でも、前からわたしを知っているというのはあり得ないだろう。戦争が本格的になったのはわたしの幼少期ではあるけれど、その前からずっと小競り合いは続いていた。そんな中で、一国の王子が、敵国の侯爵令嬢を知ることなんて、あるんだろうか?
同盟国の王子や貴族が、オアセマーレのパーティーに参加していた、という話はよく聞くけれど、リンゼガッドの王子が参加していた、ということは耳にしたことがない。貴族の噂なんて一瞬で広まるから、話に上がらないということは、よっぽど潜入スキルが高いのか、そもそも参加していないかのどちらかでしかない。
……いや、まてよ。
もしかして――『わたし』が好きというより、そもそも『人間』というものが、種族として好きなんだろうか。




