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さすがに本物の虎ほど大きなものではないが、犬歯、というにはあまりにも立派なものがついている。しかも上下。
結構鋭そうだけど、こんな歯で、口の中ずたずたにならないのかな。閉じているときに牙が外に出ているわけでもないし、口の中の構造が人間とは少し違うのかも。見た目は一緒だけど。
間違えて口の中や舌を噛んだら大惨事になりそう。
「――あー、ララ? もういい? 閉じるね?」
……じっと見すぎたらしい。シオンハイトが恥ずかしそうに口を閉じた。
「……変な性癖に目覚めそう」
それは普通に引くのでやめてくれ。
でも、そう。プリンはない。普通に食べて、問題はなさそうだ。
……食べるべき、だろうか。
ここまでしてくれたのだから、彼の無実を信じるべきか。それに、シオンハイトがこの先も延々とお菓子を用意し続けるのならば、黙ってつっぱねるのも限界というか。
彼のことを信用するかはまた別として、分かりやすくしっぽがだらりと下がって、落ち込んでいる様子を見続けるのは、なかなか良心に訴えてくるものがある。
わたしの手には、シオンハイトに毒見させたプリン。綺麗に上だけがない。
……王子だから、毒の耐性とか、あるのかな……。
ふっとそんな考えが頭をよぎる。良くない兆候。平和じゃない世界に生まれて染まってしまったなあ、と思い知らされる。
いや、でも、わたしだって、多少は毒の耐性、つけさせられたし。即死するレベルの猛毒じゃなきゃなんとかなる……はず。
それにもし、何か入っていれば、今後シオンハイトを信用するか否かで迷うことはない。
今、最初の一歩を決めるべき。
――ええい!
わたしは半分以上ヤケになって、口の中にプリンを入れた。
――……美味しい。
普通に、どころではなく、かなり、だいぶ美味しい。しかもちゃんと固めなやつ。最近はオアセマーレでもなめらかな柔らかいタイプのプリンが出始めたが、わたしは前世から、昔ながらの固めのプリンが好きだ。甘いだけじゃない、卵の味が強いプリン。
握り込んだら親指と中指がぎりぎりとどかないくらいの大きさの瓶に入っているプリンだったので、一口、二口で中間層は終わってしまう。全部食べたいけど……底の方に何かあるかもしれないし。
全く手をつけていないものならまだしも、これは廃棄になってしまうだろうか。もったいないな、と思わないでもないのだが、自分の命の方が大事なので、仕方がない。
食べるのをやめて、プリンの瓶をテーブルに置く。
――と。
隣でソファに突っ伏して、もだえているシオンハイトに気がついた。どうした、王子。




