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シオンハイトの問いに答えていないし、なんなら質問を質問で返すようなことをしている。話は繋がっていないし、会話のキャッチボールどころかドッジボールですらないような……。
それでもシオンハイトは嬉しさを隠そうともせず、全身で喜びを表現している。
「喋ってくれた!」
きらきらと目を輝かせるシオンハイト。こんなことで? 会話のきっかけになって、懐柔の道を一歩進んだ、という喜びではないことは、流石のわたしにも分かる。パッとそういう言葉が頭に浮かんでくるあたり、完全に疑いが晴れたわけじゃないけど……。
「あ、えっと、お菓子の話だったよね。人間の女の子はお菓子が好きって本にのってたから、用意したんだ」
……女の子。正直、わたし、女の子って年齢でもないんだけどな。オアセマーレでは成人していたし、前世の基準でも成人してお酒を飲めるような年齢だ。
この世界の人間の女は、『異能』という能力があるからか、比較的貴族でも結婚は遅い。より有能な男を求めるからだ。『異能』次第では生活に困らないので、焦って結婚を決める必要がない。仕事に有利な『異能』を持っている平民ならば、それこそ結婚せずに一生仕事をしている、なんてことも十分にある。
だからわたしもいい歳して今だ婚約止まりだったのだが……。もっとも、わたしがシディール様と結婚できなかったのは、お母様の影響が大きいかもしれないが。今思えば、あの人が何かしら手を回していたに違いない。
というわけで、わたしは結構な年齢であるわけだが……はたして彼にはわたしが何歳に見えているんだろうか。異世界転移ではなく、異世界転生だから、東洋人マジックにはかかっていないと思うんだけど。
それにしても、本、とは。
そんな本、売ってるの? お菓子が好き、という話ならば、生態の本よりかは雑誌みたいな本が近いのだろうか。生物学としての本ならば、人間の好物より、どんなものが毒になってしまうか、与えてはいけないもの、というものの方が書かれているイメージがあるが、実際はどうなのか分からない。
獣人の本なんて、わたしは生まれて一度も読んだことがないから、想像がつかない。
オアセマーレは結構本の検閲が厳しく、獣人関連の本は、ほぼ存在しない。医者になれば生物学の延長として、数冊読める程度だ。
たぶん、こうして戦争をしているからだと思うんだけど、物語に獣人が登場すれば、それだけで本が発行できなくなる、と聞いたことがある。
だから、わたしとしては、人間からしたら獣人の存在に相当するであろう、人間の本が普通に見れるなんて、不思議な感じだ。……それだけ、獣人は人間を敵視していない、ということだろうか。
敵視していない、というか、相手にもしていない、というか。




