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思わず振り返ると、そこには見覚えのある人がいた。
見覚えがあるどころじゃない。
――女王様、本人だ。
しかも、わたしのすぐ後ろにいる。どうして、こんな近くにいるまで気が付かなかったのだろう、と思って、すぐに考えを改めた。
そもそも、爆破事件があったときも、今のように、女王様がすぐ背後にいたじゃないか。
目くらましの『異能』。
それが女王様の『異能』なのだろう。ということは、高確率で、ライレグーンを世界の目から隠していたのも、彼女。
女王に選ばれる女性の『異能』にしては、威厳がないが、島国一つ隠しても平然としている、というのは、彼女の『異能』の力が非常に強い証拠でもある。
一番に目が合ったわたしは、思わずシオンハイトたちをかばうように、一歩前に出た。
その動きで、ようやくレギーナ様たちも気が付いたのか、わたしたちの方を見る。流石のレギーナ様にも、焦りが見えた。
『中央』は良くも悪くも中立の立場。手続きが終わらない以上は、こちらを守ってくれることはない。
「あなたたち」
女王様の掛け声で、しん、と、あたりの空気が冷たく張り詰める。
あとちょっとなのに。
威圧感ある笑みを浮かべる女王様の、余裕っぷりに、もう、終わりなのか、と思ってしまう。
「書類を、持ち出したら駄目でしょう?」
――書類。違法奴隷の研究記録や、顧客リストなど、証拠になりえるものたちのことだろう。
「返しなさい」
端的に言う、彼女の言葉に、わたしは身がすくむ思いだった。
彼女の瞳が、わたしたちを捕らえている。その奥で、わたしたちを、どう始末するのか、計算しているのが見えるようだった。
わたしを見る、その目が、分かるでしょう、と語りかけているのが明らかだった。
あの爆発騒ぎのとき。シオンハイトを助けるかどうか、と、取引を持ちかけられたときと同じ目をしている。
まだ、彼女側につけば、わたしたちを見逃してくれる、とでも言うのだろうか。
そんなわけない。
今ここで大人しく従ったところで、二度目があるとは限らない。そのまま、『不慮の事故』が訪れるか、それとも、いいようにいつまでも脅されてしまうか。
そんなこと、分かり切っている。
でも――でも。
わたしの脳裏には、爆発騒ぎで、誰にも助けてもらえないまま、血まみれで、血に付す獣人たちの姿がちらついていた。
シオンハイトも、ああなってしまったら――。
「――ッ」
わたしは、弾かれるように、カウンターにあった数枚の紙を奪い取り、女王様へと駆け寄った。




