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実母信じて行動することにしたのはいいとして――問題が一つ、浮上した。
どうやって実母に会うか、である。
正直、すっかり忘れていたのだが、今のわたしたちは端からみたらラペルラティアとシオンハイトに見えないのだ。別人に変装しているから当たり前なのだが、そんなことを忘れ、あっさりと会えるものだと思い込んでいた。そんなわけがない。
実母が本当に獣人奴隷の保護活動をしていたところで、その活動の場に裏切り者がいたことは間違いない。
ならば、正面から堂々と会いに行くのは控えた方がいいだろう。
奴隷として売られそうになったんです! と泣きつくのが正解だろうか、上手く演技ができるだろうか、とシオンハイトと歩きながら相談する。
わたしが絵に描いたあの場所からならば、シオンハイトは屋敷にたどり着けるらしい。しかも、お忍びで来ていたから、人目につきにくいルートも知っているという素晴らしさ。
シオンハイトが記憶操作系の『異能』が効かないのは、その記憶力の良さのおかげなんだろうか、と少し思ってしまう。まあ、実際はそんなこと、ないんだけど。どれだけ記憶力のいい天才でも、『異能』の前には敵わない。単純に、シオンハイトが記憶操作系の『異能』が効かない体質な上に、記憶力がいいというだけの話だ。
しばらく歩いていると、道の舗装が変わり、大きな屋敷が見えてきた。――実父の実家の屋敷だ。
ようやくたどり着けた、と思ったとき――「お嬢様?」と声をかけられた。
思わず声のする方を向くと、丁度、屋敷の前の道と、別の小道が合流するところに、一人の女性が立っていた。メイド服を着た彼女の頭には、耳がぴょこんと立っている。分かりやすい、うさぎの耳。彼女は、買い物の帰りなのか、大きな紙袋を抱えていた。
誰だか分からなくて、まじまじと女性を見てしまうと、彼女がパッと慌てだした。
「あ、す、すみません……っ。知っている方に似ていたもので」
顔立ちは似ているかもしれないが、顔の印象は結構変えたつもりだったんだけど……。
もしかして、彼女にはわたしの『異能』が効かない、とか? もしくは、ずっとわたしのことを彼女が強く覚えていてくれたとか……。両親にわたし以外の子供ができていて、その子がわたしに似ている可能性も十分にあるけど、それならば『知っている方』という言い方はしないだろう。仕える主人の子供を、『知っている方』とはおかしな言い方だ。それに、わたしにかけた声は、なんだか自信がなさそうだったし。
「……君は、ここのメイド?」
シオンハイトが屋敷を指しながら、女性に問う。返ってきたのは肯定の言葉で。
「は、はい。十年と少しばかり務めさせていただいております」
「……家には、帰らなかったの?」
「――え?」
女性の顔が少しこわばる。
「君、十年前にもいたでしょう。ここに、保護されて」
シオンハイトの言葉に、彼女は目を丸くしていた。




