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結構走って逃げはしたものの、わたしたちが下りた船が停泊した場所からそこまで遠くはない。ということは、ライレグーンがわたしたちの出会いの場であった、あの屋敷と繋がっていた、と考えてもいいだろう。
「――……フィナディは、脱走した奴隷がどのくらいいるか、確認してたのかも」
獣人奴隷の保護活動をしていた実父の実家も、ライレグーンの問題に関わっているかは、確実な証拠がないので何とも言えない。
しかし、獣人奴隷の売買に関わっていたと思われるフィナディという人物が、確認の為に保護活動を装っていた、というシオンハイトの言葉には、信ぴょう性があった。
わたしは、あの保護された獣人たちが、保護された後どうなったのか知らない。獣人たちは皆、他人を疑って警戒してる者が多かったから、わたしは近付かないようにされていたのだ。
もし、実の両親が、ライレグーンの問題に加担していたら――保護された、と見せかけて、再び奴隷として、どこかに連れて行かれてしまったのだろうか。
……考えたくも、ない。
それは、実の両親が悪人だっと認めてしまうことになる。
ほとんど小さい頃にお母様に引き取られて、そこまで思い出らしい思い出がいくつもあるわけじゃないけど。
それでも、自分を産み、育ててくれた人が悪だったとは思いたくないのだ。
……でも、実母とお母様は仲が悪かったはずだし。お母様が獣人を否定するような人間だったのなら、実母は逆なような気がする。希望的観測でしか、ないけれど。
――ただ、実母が本当に獣人を保護している人間だったら、正直、今、頼るべきだと思う。
何もないところからレギーナ様にコンタクトを取るのであれば、それこそ王城に忍び込むしかないが、そんなことが簡単にできるわけがない。わたしが、どこかへと侵入するための『異能』を持っていれば話はまた少し変わってきたかもしれないが、流石に色をつける、あるいは替えるだけの『異能』では、いくら考えをひねったところで限界は来る。
その点、実母を頼ることが可能であれば、実母に頼んでレギーナ様に繋いでもらうことができるだろう。実母が本当に獣人の保護活動をしていたのであれば、レギーナ様が目をつけていてもおかしくはないし、そうでなかったとしても、両親の爵位であれば、王女様へ謁見することが難しくない。
「――ララ」
わたしの耳元で、シオンハイトがささやく。
「大丈夫? 信じられる?」
信じられる、か。
言わずもがな、実母が、本当に善人で、保護活動をしていたかどうか、それを信じることができるか、ということだろう。
シオンハイトも、わたしと同じく、実母を頼ることを思いついたようだ。
わたしは、勇気を振り絞って、シオンハイトの手を握った。
「……大丈夫よ。あの人の屋敷を探しましょう」
全員を信じれる人間になるかは分からない。信じた人間が、全て正しいかは分からない。
でも、信じて、そして正しい人間がいると、シオンハイトが身を持って証明してくれたから。
――わたしは、実母を信じて行動してみようと思う。




