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確かに、少しだけ人の気配が減ったような気がする。……それでも、おそらくはソファの空いているスペースに座っているのであろうシオンハイトが動く気配はない。
完全にソファに横たわっているわけじゃなくて、座っている状態から上半身だけ寝そべるような感じで寝ていたから、彼一人が座るくらいのスペースはあるはず。
ゆっくりと、頬が再び撫でられる。時折、髪をいじっているのか、少し、髪が引っ張られるような感覚もする。
「……僕は本当に、ただ可愛いと思っているだけなのに」
誰にも聞かせるつもりがないと思われる、とても小さな独り言。でも、この距離だと流石に聞こえてしまう。
その声音は、ささやかでも、しっかりと、反抗の色を感じた。愚かで可愛い、という男の言葉に、言い返したかったのだろうか。
いや、まさか、そんな……。
わたしが内心で動揺していると、ソファの座面が少し動いた気がした。……もしかして、シオンハイト、立ち上がった?
今、このタイミングで目を開ければ、立ち上がったときの衝撃で起きたと、自然に見せることができるだろう。流石にそろそろ、体も動くようになっているようだし。
そう思って、目を開けようとしたとき――。
先ほどまで撫でられていた頬に、何か柔らかいものが押し付けられたような……えっ、なに、今、もしかしてほっぺにキスされた?
手袋をつけた手で撫でられたのとは全然違う感触。手袋を外して、頬をつついたんだろうか。どっちだ?
いや、でも、シオンハイトって騎士団長なんだっけ? だったら、たとえ手袋を外したとしても、こんなに柔らかいことなんてあるか? いや、でも、王子から騎士団長、なのだから、コネ就職で、実際に戦場に出ることはないから訓練とかしないのかな? 分からん、どっちだ!?
ぐるぐるとわたしの中で、先ほど頬に当たった感触は手袋を取った指先なのか、唇なのか、そのどちらなのだ、という考えが頭の中で巡って、完全に起きるタイミングを失った。
「どうしたら、味方だって、分かってもらえるのかなあ」
とろけるような甘い声音は、わたしの耳から遠い。なんなら、足音と共に声が離れていったようにも思う。
独り言、なのか……?
完全に分からない。どうなんだ。
結局、狸寝入りだと気が付いて、わたしにわざと聞かせた言葉なのか、それともわたしが寝ているからこそ、こぼした本音なのか、分からないまま、わたしは夕食の時間だと、シオンハイトが肩を揺さぶって起こしてくれるまで、目を開けることができなかった。
それまでずっと、シオンハイトが撫でていたわたしの頬は、熱を持っているかのようで、意識せずにはいられなかった。




