表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/58

9話 難しい技

「試合? 待ってたぜ」

「お、話が早いな」


 田浦(たうら)夕雅(ユウガ)鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)佐倉(さくら)(ミチル)が来るのを見て、彼らが試合を挑みにきたと察する。その通りで、二人は次の試合はユウガのチームとやろうと思っていた。


「ところでカリンとの勝負はどうだった?」

「まだやってない」

「へえ意外」


 ハヤトは自分たちが前の試合をしている間ユウガは別のチームと試合をしていたと考え、勝敗の行方を尋ねるがそれは不明。そもそも彼らは勝負をしていない。ユウガのことだからいの一番に挑んでいたと思ったが、色々あってタイミングを逃していた。


「アツカが遅刻するから、初めてを取られちゃってさ」

「やーごめんごめん」


 その原因であるユウガのチームメイトの福俵(ふくたわら)天使(アツカ)が会話に混ざってくるなり謝る。開会式が終わり、支給メカを受け取り、改造を済ませた参加者が最初の試合を終える頃にようやく到着するという大胆な遅刻をしたことに。


「迷ったのか? 飛べるからって油断して」


 アツカには空を飛ぶ特殊能力がある。だから歩かずに空を通って会場に辿り着ける。それが却って時間にルーズになり、遅れたのではないかと疑うが、それは誤解だった。


「雲の上に用事があって」

「そういや人探しにいってたんだっけ」


 アツカの遅刻には訳がある。武蔵浦(むさしうら)春桜(サクラ)という人が行方不明と聞いて、空にいると情報が入ってきて特殊能力で空を飛べるアツカが探しにいった。結果として天界まで行ったせいで往復に時間がかかった。


「まあ無事エントリーできてるし、いいじゃん」

「そうだな。何の罰も無いし」


 人のために動いていたのだからアツカの遅刻は責めない。それに少し遅れただけで後は他の参加者と同じようにイベントに参加できている。過ぎたことと割り切って、予定通りイベントを楽しんでいる。



「俺たちもカリンとはまだだ。会ってもねえし」

「手合わせしたいけどな。ユウガたちが先でもいいけど」


 試合を申し込んだとはいえ、向こうの合意も必要。ユウガたちが他のチームと試合したいと言うのなら、ハヤトたちで他をあたる。アツカの遅刻でタイミングを逃したのなら尚更だが、彼は勝負に応じ意見を出す。


「俺たちと勝負だ。勝った方がカリンと勝負ってのはどう?」

「いいのか?」


 負けてユウガが駄々をこねる未来が見えたが、彼は頷く。勝てるか不安なわけではないが、それくらいの条件は必要と考えて。


「君たちに勝てないと、話にならないだろうからね」

「俺たちがあいつより下って言いてえのか」


 ハヤトたちに負ける程度では、まだ実力不足。そう捉えるユウガの、前座扱いにムッとする。


「だって君たちが引き分けた二人に4―3で勝ったんだ」

「俺たちだってあのまま続けていれば勝ったし」

「カナタが負けでいいって言うから従っただけだ」


 実力差の根拠はこれまでの試合結果。けれどもハヤトたちは納得しない。メカの操縦する参加者に直接攻撃したのを罰と自己判断し負けと認め、2―2で中断。後半は彼らが試合の主導権を握っていたこともあり、その自戒がなければ勝利していたはずだと信じて疑わない。


「……で、そのチームメイトは?」

「あっちでメカと自主練してるぜ」


 ここにいる四人で試合をするのではない。ハヤトたちには味方がもう一人いる。その溜池(ためいけ)彼方(カナタ)は、空いたコートでパートナーのメカと特訓中。試合相手が決まったら呼びにいく約束をしてある。


「そもそも俺たち三人チームだけど……」

「なんか交ぜてもらいたがってる奴が見える」


 勝った方が先に次に試合できるという条件をつけたものの、チームに人数差がありハヤトたちが有利だ。これまでも彼らは二人チームを相手に三人で試合してきたが、前半は無改造のハンデをつけたり数合わせの助っ人を用意するなどして差を埋めた。

 今回もそうしないと勝負にならないと思った矢先、ユウガとアツカの同級生の大船(おおふな)切裏(コトリ)が隠れてスタンバイしているのが見えた。


「でもカリンたちは二人チームで、そこに勝つなら二人で強くならないと」

「……そうだな。それにこれくらい二人で勝てなきゃ話にならねえ」

「馬鹿にしやがってよお」


 しかしアツカがユウガに吹き込む。本命の相手は二人のチーム。コトリなどの助っ人込みで強くても、その勝負は二人同士でやるのだから意味がない。

 それを受けてユウガは、二人で大抵の三人チームに勝てるくらいの実力は前提条件と考え、アツカの提案に乗る。


「じゃあ三対二でいいぜ。ハンデなしの」


 それは対等な人数なら勝てて当たり前、一人少なくても勝負になる程度の相手と認識されているように聞こえ、ハヤトたちはムカついた。ユウガたちがその気なら、人数差があっても遠慮せず叩きのめすと誓った。


 一方アツカの提案という余計なことを言われて出る機会を逃したコトリはチームメイトの元に戻っていく。



 ハヤトたちが試合の交渉をしている間、カナタはメカのルミアの特訓に付き合っていた。メニューはルミアが足元にボールを持った状態でディフェンス役のカナタを突破すること。ドリブル技は持たないから、代わりに相手役にボールをパスして取り返すためのディフェンス技で。


 ルミアはカナタと向き合い、様子を窺ってパスを出す。そして必殺技で取り返そうとするが、その前に逃げられてしまった。


「逃げないでよ」

「隙だらけだ」


 カナタは実践を見据えて動いているので棒立ちでパスを受けない。隙あらば自力で取りにいく。練習にならないとしても、求めているのは実践で通用するレベル。甘やかす気はない。


「ルミア。相手にパスしてディフェンス技撃つのと、元から相手ボールで普通にディフェンス技を撃つのと、違いは分かるか。ヒントはパスする前」


 カナタの質問でルミアは思い返す。前者は今の特訓で、後者は一つ前にしていた特訓。どちらも相手はカナタで、撃つ技も同じ。自分の動きはパスの有無だが、相手のカナタの違いは顕著だったと気づく。


「ディフェンスかドリブルか」

「そう。相手がボールを取りたいか、取られたくないかだ」


 確かにわざとパスしてからはどちらも同じ。だがそうする前は違う。相手はわざとパスが来るとは考えないから、自力で奪うべくディフェンス技を仕掛ける。向こうがルミアと一緒でドリブルよりディフェンスが得意だとしたら尚更だ。

 逆にボールを持ったら、狙うのはドリブル技だ。


 だからカナタはさっき、パスを待たずしてボールを自力で取りにいった。


「つまりこっちがボールを渡す前に、向こうが技を撃ってくるかもしれない」

「そう。そこでそれを阻止するアイディアなんだけど」


 カナタは実際にやってみて、使い分けるのは難しいと感じた。だったらやりやすい一方に寄せればいいと思い、実現に向けた動きをイメージした。


「こう、相手に取られる長いドリブルを」


 カナタはルミアの立場になって実演する。離れて正面に立たせて、ドリブルで迫る。相手にパスするのではなく、うっかり遠くにドリブルして相手が先に届くようなボール運びをした。


「で、相手が拾ったところで取り返す」


 ボールがルミアに渡ったところで、ディフェンス技の出番。相手の意識がディフェンスではなくドリブルに向いたところを狙う。

 これなら本来のディフェンスに寄るのでやりやすいと思い、実際にルミアにやらせてみた。


 ルミアがドリブルで進み、あえて遠くに蹴る。横取りのチャンスと捉えたフリをしたカナタが、加速して先にボールに触れる。そして遠くに蹴った時点でディフェンス技"アースブレイク"の準備をしていたルミアが、すかさずカナタに地面の欠片をいくつもぶつけて吹き飛ばし、ボールを奪った。


「オッケー今の感じ」


 カナタは倒されながらもルミアの成功を喜ぶ。以降の試合で今みたいにスムーズに動ければ、奇襲として刺さるにちがいない。彼は自信を持った。


「そしたら次はお前の自由だ。シュートしてもパスしてもいい。困ったら俺も指示を出す」

「シュート……」


 試合はボールを取った後も続く。擬似的にドリブル突破したルミアが次に取る行動は場合による。カナタはそろそろルミアのシュート技を見たいと思ったが口には出さない。持っていないかもしれないし、だからといって使えるようにならないといけないなんて気にさせるのも良くない。

 ただ今の特訓は試合で絶好のシュートチャンスを得る展開に繋がる。願望が現実になるのを期待して、特訓を終えた。



 京橋(きょうばし)慧練(エレン)はカナタたちとの試合を終えた後、助っ人に呼んでいたルミアと同様の自我持ちメカのステルにシュート技を伝授してもらっている。技名は"スーパーアース"。惑星を落とすような強烈な、ボレーシュートだ。


 モーションは足元のボールを空に蹴り上げる。すると銀河が広がり、惑星と化したボールを空中から蹴り落とす。だがエレンは自身のメカを操縦して練習しても、なかなか銀河が見えない。


「ずいぶん難しい技ですね……」

「必殺技は自分でイメージしやすいものから習得するものです。真似するより、自分らしい技を編み出す方がスムーズにいきます」

「自分らしい……」


 エレンには特殊能力がある。激流を体や地面から放出する力だ。前の試合では足元から水飛沫を上げ一時的に自身を浮かせ、視界を確保した。

 水を用いる必殺技なら、自分を見本にすればイメージがつく。継承は諦め、オリジナルの必殺技を編み出す方が近道かもしれないと勧めた。


「ステルさんはどんなイメージを?」

「私? ……宇宙の彼方へ行く、ですかね」


 まだエレンは諦めない。ステルは会得までにどんなイメージを抱いたのかと尋ねた。そしてステルは思いを語った。


「あれは惑星(プラネット)矮星(ドワーフ)を模したシュート。本来は二人の連携技なんです」

「それであの赤い星……」


 演出に浮かぶだけでシュートには関与しない赤い矮星。だが本来は、そっちを蹴る仲間がいる。むしろその仲間と撃つシュートをイメージして編み出したのだ。一緒に考えて、できるようになろうとしていたルミアとの日々を思い返す。


「でも未完成。メカに連携技は無理ですから」


 しかしその連携は一度も成功していない。メカゆえに息をしないから息が合わないわけではない。

 エレンは不思議に思った。確かにステルもルミアもメカだが人間に近い。体格的にも、会話できる点でも。何よりルミアはカステラという人用のお菓子を平気で食べていたし、カナタのことが気になっているのが見てとれる。



「私たちは個々が最強の破壊者(ストライカー)を目指すために作られた。仲間は要らない、1vs11でも圧倒できるくらいの強さを求めるのに、連携能力は必要ないのです」


 言ってしまえば、連携技を撃てないように改造されたせい。


「技は無理でも、連携はできます。さっきの試合だって、うまくやれていたじゃないですか」


 思いも寄らなかった空気になってしまいエレンは戸惑いつつも、一緒に試合をしたときのステルはチームに溶け込んでいたとフォローする。人数合わせとはいえ本部の立場から助っ人になってもらい、即席チームで挑んだあのときは、元から三人チームだったかのように噛み合っていた。


 だからメカに協調性がないなんて嘘。ステルたちが作られた目的が世界征服と知らないエレンは、きっとできると肯定的に捉える。


「……ありがとう。お礼にせめて一人でのシュート、特訓するなら付き合ってあげましょう」

「お願いしますっ」


 自分たちメカが戦いの手段でなくなるのなら、夢に見た連携技を完成させられるかもしれない。自分たちを、そしてボスを止めてくれる存在になることを願って、ステルはエレンに付き添った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ