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7話 最大のチャンス

 ボールを取ったルミアの前に相手のステルが立ちはだかる。溜池(ためいけ)彼方(カナタ)は指示を出さない。ステルの能力は未知数だがルミアの記憶にはあるかもしれない。本人の好きにさせた方がいいと判断した。


「こっちだ!」


 すると鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)が呼びかける。ハヤトメカを走らせ、その先にボールを出すよう合図しルミアは応じた。


 すると相手の羽生(はにゅう)(クグイ)がハヤトメカのマークにつく。クグイメカを走らせ、さっきと同じシチュエーションができた。

 ハヤトが得意なのはスピード勝負。少人数サッカーゆえに空間が広く、誰いない所にボールを出して自分で真っ先に拾いにいく。けれどもクグイメカのスピードも彼との同等で、加えて体も柔軟に改造したので守備範囲が広い。ボールを出したら足で弾かれてしまった。


 今度はどうするのかとカナタはハヤトに視線を向ける。場合によっては援護するようルミアに指示すると想定して。

 だがハヤトは単独で突破を図った。ボールを足に乗せ、放り投げるようなループパスを出す。


 ボールがクグイメカの頭上を越え、落下先に回り込むようハヤトは走らせる。パスではなく自分で拾うために。だがクグイメカは片足を後ろ回しに頭上へ上げて空中でボールを弾く。まるでバレエのアラベスクのように。ハヤトの作戦は初見で防がれた。


「くっ」

「ルミア、ディフェンス!」


 ハヤトの表情からこれは想定外の結果と読み取り、カナタはルミアに指示を出す。相手もエレンメカにボールを出し、ルミアは三度そこからボールを取りに位置につく。

 その位置は正面ではなく、操縦者の京橋(きょうばし)慧練(エレン)から彼女のメカが見えにくいポジション。両者に割って入るような位置取りだ。そしてすかさず必殺技のアースブレイク。地面を強く踏んで破片を浮かし、それらを相手のメカとボールにぶつけて奪う技。


 エレンは特殊能力を使い足元から激流を放出し、一時的に体を浮かせた。これでルミアが視界の邪魔にならず、必殺技を食らいつつも味方にボールを繋いだ。

 そのボールはステルが拾う。残すはキーパーのミチルメカだけだ。


「来るぞ!」


 カナタは佐倉(さくら)(ミチル)に警告する。彼を吹き飛ばすルミアのシュートを片手で止められるステルが、三人チームなのにキーパーなしの陣形で、それもフォワードにいる。

 ルミア同様に自我を持つサッカーメカのステルは、ルミアと同等の威力のシュートを撃ってきてもおかしくない。そうなるとミチルメカの出番だ。


 ミチルはボールを取りに前に出ていたところ、ゴール前に戻って必殺技を構えをとる。



 ステルはボールを高く蹴り上げた。蹴った瞬間にボールは白い光を纏い、空中で宇宙が広がる。銀河の中には赤く小さい恒星と未確認込みで六つの惑星。ステルは宇宙に飛び上がる。


「スーパーアース!」


 空中でその惑星の一つを蹴り落とす。それがボールで、こちらのゴールに迫ってくる。


「ハウンド・ザ・ハンド!」


 ミチルはメカに一試合二度が限度のキーパー技を使わせる。それだけ負担が大きい技だが出し惜しみしている場合ではない。

 そして、ステルのシュートはミチルメカの噛みつくようなキャッチを貫いた。いとも簡単に破り、0―1。ミチルは呆然とする。


「二回しか使えない大技だぞ……なんて威力だ」

「これがステルの本気……」


 ミチルは全力を出せた。出せる回数が限られているうえで、出せばどんなシュートも止められる自信があった。それがパワーに特化した最強のメカと信じていた。それなのにパワー勝負で負けてショックだった。


「なんて強さ……私たちとはレベルが違い過ぎる」


 そしてステルのシュートにはエレンたち味方も驚いていた。始まる前に相手チームのさっきの試合映像を確認し、ミチルメカは強力な必殺技を使える代わりに負担が大きいから、シュートをたくさん撃って息切れ後に勝負をかける作戦を立てていた。にもかかわらず、相手の全力を小細工なしで超えた。ステルと自分たちのメカには、大きな差があると実感した。


「ゴールよ! 私たちの!」

「……あっ、そうよ! やったやった」


 クグイに言われて先制点で喜ぶことも忘れるほどに、ステルのシュートの衝撃が凄かった。あんなシュートを自分のメカで撃てるようになりたいと思うほどに。


「ボール! 早く!」


 ハヤトは試合の再開を急かす。次はどう止めるか考えていられない。点を取り返さない限り負けだから、早く成し遂げたい。

 カナタは悩んだ。焦って再開してボールを取られて同じ流れで失点するリスクがある。だがここは彼の勢いに乗ることにした。


「ルミア、キックオフしたら前に上がれ」


 賭けに出る以上、うまくいかなかった場合に備える余裕はない。ハヤトがクグイに勝てるようサポートできる位置につく。それが今の作戦だ。


 ハヤトは全速力でなるべくメカを前に出す。エレンメカを突破し、残るは柔軟さが厄介なクグイメカ。横にも縦にも隙がない。その攻略にルミアも前に出たものの、ステルとエレンにマークされて彼は単独でも攻略を強いられる。


「こっちだハヤト!」


 ミチルが叫ぶ。彼のメカがゴールを空けて走ってきた。ハヤトは後方にパスを出す。これならクグイメカの柔軟な脚でも届かない。そしてミチルはガラ空きのゴールへシュートを放ち、ゴールを決めた。これで同点1―1。そして前半が終わった。



「ナイスシュート」

「おう。足は平気だからな」


 キーパー技は腕への負担が激しい反面、足は問題なく操縦できる。技を二回使って限界になったら足でカバーしようと考えていたが、その発想が思ったより早いタイミングで活きた。


「ルミアもよく相手を引きつけてくれた」


 ミチルの奇襲が成功したのはルミアが相手二人にマークをされていたから。その貢献ありきの得点だと、カナタは褒める。


「後半はこっちのキックオフだ。いっそ今と同じ三人攻撃も有りかも」


 点を取ったら相手にボールが渡る。ハーフタイム直前に取ったことで、そのデメリットを帳消しにできた。だから相手にボールを取られない限り相手に攻められることはない。なら取られないために攻撃特化の布陣を敷くのはどうかカナタは提案する。


「いいぜ」

「ああ。守るのを考えるのは逆転してからだ」


 同点の状態でこちらのキックオフで始められるのは後半開始直後の一度だけ。唯一で最大のチャンスは攻めに振り切り、かといって時間いっぱいかけて一点を取るなんて作戦ではないから、取って相手ボールで再開したときのことは結局考えなくてはならない。


「いや、今考えようぜ。時間あるし」

「確かに」

「それか改造でもいいけど」


 後半直後は全員攻撃。そんな博打に出る案が満場一致で賛成だったので、そこで意見の言い合いにならない分、他のことをする時間が余った。前の試合みたいにメカの改造に費やすのも良い。


「……俺はこのままでいい。これ以上電圧上げると動かなくなるからな」

「俺もだ。力比べで負けたまま終われねえ」


 だが二人ともメカは前半のままで行くと答えた。理由はそれぞれあるが、共通して言えるのは現状が各々の考えるベストであるということ。そして勝つためにはそれを貫きたいということだ。


 メカの性能を変えないのなら、展開の左右するのは戦略だ。クグイのディフェンスはミチルも攻撃参加で抗うとして、問題はステルのシュート。



「あっちのシュート、普通だったよな? ミチルのみたいに回数制限があるのじゃなくて」

「ああ。前の奴らみたいに、普通に本気って感じだった」


 ミチルはステルのシュートを目の前で見て、それは彼のメカのキーパー技のように負荷をかけているようには見えなかった。つまり後半もチャンスさえあればいつでも撃ってくるにちがいない。強さの秘訣は単純に、ステル自身の実力の高さだ。二回が限度なんて甘い弱点はない。


「ミチル、危なくなったらステルをマークだ。ボールを渡さなければシュートは撃たれない」

「……だな。他の二人がシュート技持っているかもしれねえし」


 ミチルはあと一回撃てるキーパー技をエレンやクグイにとっておくことにした。意地になってステル相手に再チャレンジして、以降誰のシュートも止められなくなる。ステルのシュートを止められなければ温存するとしないとで失点数が一つ違う。止められるとしてもどのみち一失点同じだから、強い技に強い技をぶつけるメリットがない。

 ならステルのシュートを通すのかというとそうではなく、まだ動く足でそもそも撃つ前に止める。


「よし、ルミアは前でハヤトの援護。その代わりミチルがディフェンスとキーパー。後半はこれで行くぞ」

「「おう!」」


 結論としてルミアとミチルメカがポジションを前に寄せる布陣に変える。それが後半の作戦だとカナタは宣言し、試合の再開を待つ。各々がメカの操作で準備運動するなか、彼は鞄を漁る。取り出したのはカステラ。来る途中にコンビニで買ったものだ。


「お、美味そう」

「気合い入れるとき食べるのが癖でね」


 それはカナタのルーティン。三切れあるしチームを組むと分かっていたが人にあげる分はない。この試合が終わっても今日のイベント、メカサッカーコンテストは続く。残りは全部自分で、今後の試合用に食べる。


 取り出して口に入れようと顎を上げたとき、自ずとルミアが視界に入り、視線を向けられていることに気づき、頬張る前に手を止める。

 さすがにメカは食べないだろうと思い込みつつ、視線が気にならないよう体ごと向きを変える。


「何を食べるの?」


 その間に寄ってきたルミアに尋ねられてもう一度手が止まる。


「人間のおやつだ」

「私も食べたい」


 まさかそう返してくると思わなかったカナタは、人間と機械の違いを説明しようと考えたが、先にステルに確認した方が良いと気づき、話し掛けにいく。



「あの、こういう食べ物ルミアいけますかね」

「はい食べられますよ」


 ルミアと似たような体格のメカであるステルも内部構造は同じと思い、食べ物は駄目か確認する。しかし答えは、人間と同様の食事は可能というもの。

 カナタは戸惑いつつも、掃除機みたいなものかと納得し、精一杯の譲歩で一切れの半分をルミアにあげた。


「それ何?」

「俺のお菓子だ。あげないぞ」


 今度はエレンが食いついてきた。相手チームに分け与える分などない。そしてルミアと一緒に食べた。


 確かに平気そうに食べている。こうしてみると普通の女の子だとカナタは思った。けれどもその正体は眠って放置されていた誰に改造されたか分からないメカ。その謎はこのイベントの中で解ける予感がするが、今はまだ謎だらけ。


「美味しかった」

「そうか。カステラっていうんだが……帰り道で買いにいくか?」

「うん」


 このイベントでは支給メカは記念に持ち帰ることができる。ルミアもきっとそうだろうから、帰り道にもコンビニに寄っていかないかと提案する。味が気に入ったルミアは頷いた。


「私も行きたい」

「まあいいけど。駅の通り道だし」


 なぜかエレンまで同行を申し入れてきた。恐らく彼女も駅へ帰るだろうから、大した寄り道にならないのでカナタは拒まなかった。連れて帰れるルミアはともかく、今日しか関わる予定のない彼女がなぜこんなに積極的なのか、疑問に思いつつもわざわざ聞きはしなかった。

 彼女がルミアを捨てた関係者だと疑いたくないために。



 それはさておき食べ終わったら再びコートに戻る。いよいよ後半キックオフ。カナタの作戦通り、フォーメーションは攻撃方面に厚くした。問題はエレンチームがハーフタイムにどう作戦を立て直したかだが、前半と変わっていない。

 そしてこちらの陣形を見て慌てる素振りもない。その冷静さが気になるも、深読みしてチャンスを逃すわけにはいかない。作戦通りにいくように、二人の操縦とルミアを信じた。


 ハーフタイム中のエレンチームの作戦会議。1―1で迎える後半は、相手は最初から攻めてくると予想がつく。なら三人でディフェンスするか一人をキーパーに据えるか対策が挙げられたが、どれもエレンが却下した。

 そのフォーメーションは練習していないし、する時間もない。合理的に見えて実際は裏目に出るかもしれない。そうなると流れは相手に掴まれる。

 臨機応変に変えて試すのは得策ではないと考える。


 そして後半開始直前の今に戻る。ゆえに勢い任せに攻撃に全振りしたカナタたちがどれだけ痛い目に遭うか、試合で分からせてやると決意を掲げていた。

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