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4話 考えは甘かった

「俺とカナタがフォワード、ミチルがキーパーで行く」

「……よし」


 溜池(ためいけ)彼方(カナタ)はチームメイトからポジションを聞いた。まだ三人での練習をしていないが、今回は相手が二人。初陣ながら強気な陣形でも行けると判断しての案だと受け入れた。


「空いてるところにパスをくれ。俺のスピードで拾ってゴールを決める」

「分かった」


 そして手短に作戦を聞く。大まかな戦法は鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)佐倉(さくら)(ミチル)で一対一の練習をして固めていた。息切れしないメカの性質を活かしてハヤトは終始フィールドを駆け回らせる。相手の数は少ない分、空いているエリアは広い。カナタは難しいことを考えず、パスを出せばいい。


「守りは俺に任せな。俺のパワーで一発も通さねえから」

「分かった。邪魔しないようにする」


 一方で守備は、ミチルが頑丈なメカの性質を活かして強気に守る。床への転倒を恐れず飛び込んだり、シュート前に突っ込んだり。そうすれば点は取らせない。

 攻防それぞれの方針を聞いて、カナタはパートナーのメカに出す指示を考える。


 メカサッカーコンテストのデビュー戦が始まった。仲間二人と相手二人がコントローラーを構え、メカを動かしポジションに就かせる。カナタだけはそれを持たず、メカに言葉で指示を出す。


「ボールが来たら、ハヤトメカに繋げ。多少ズレてもいい。あいつが走って拾ってくれる」


 捨てられていたものの以前このイベント用に改造されたメカだ。名前はルミアで、当時の経験かある程度はプレーに理解がある。カナタはお手並み拝見の意味も込めてコンパクトな指示に留めた。後はルミアの実力を見てから考える。



 相手のキックオフで試合開始。相手は二人で突っ込んでくる。今ボールを奪えば、即シュートを撃ってガラ空きのゴールに突き刺さる。

 だがハヤトメカは素通りし、手ぶらで前線に向かう。作戦通り、ミチルメカが止め、パスが届くと信じての動きだろう。


 一方でルミアは自主的に相手の進路を塞ぐようスライドした。カナタはそれがミチルの視界を塞ぐ逆効果を招くと恐れ、退くよう指示を出した。守備は任せろと言われた以上、出しゃばって邪魔するわけにいかない。


「ルミア下がれ! シュートはキーパーが止める」


 自分を呼ぶ声が聞こえたルミアは、言われた通りに道を開ける。シュートコースが空いたが、ミチルメカは正面で準備できている。


「……なら止めてごらん。私の、必殺技をっ」

「必殺技だと!?」


 大船(おおふな)切裏(コトリ)はそう宣言する。好きな人と一緒のチームになれなかったのなら、想いを込めたシュートで射止める。


 操縦するとコトリメカが片足を振り上げてボールに踵落としを打ち込むと、ボールが球体のまま赤と青の二つに分裂して飛び跳ねる。赤はボールの芯で元の球体より小さく、青は表面で元と同サイズながら透明。


 曝け出す心と秘めた心。切り離すけれどどちらも届けたい。そんな思いで編み出した必殺技。


「ハートマインド!」


 思いを込めて名付けた必殺技。

 コトリメカは浮いた二つのボールに向かって驚異的なジャンプで食いつき、両足で同時に蹴った。点と面に同時にインパクトを与えボール全体に余すことなく勢いをつけ、空中でボールが一体化した高威力シュート。これこそコトリの言う必殺技だ。



 凄まじいシュートがミチルメカに迫る。ミチルは動揺しつつも叫んで力を込め、正面からキャッチする。まだボールの勢いは止まらず、前進して踏ん張る。

 だが徐々に押され、メカごとゴールネットに吹き飛ばされた。これで0―1。一人少ないコトリチームに先制されてしまった。


「受け止めてくれてよかったね」

「これは練習だから!」


 戸塚(とつか)智絵(トモエ)はコトリのゴールを喜ぶが、本人は満足していない。この技はミチルではなく別の人に勝って結ばれるために何度も妄想して編み出したもの。いうなれば他は練習台だ。


「何だ……今のパワー」

「大丈夫か!? 直撃したけど……」

「ああ、何ともない」


 ミチルは必殺技の威力に絶句したが、カナタが心配するようなダメージはなく、今まで通りにメカは動かせる。試合の続行は可能だ。


「けど……」

「気にすんな。俺のスピードで取り返す」


 動かせるからといって、フルパワーでも止められないなら意味がない。失点を抑えられるか不安になるミチルに、ハヤトは肩を叩く。取られた以上にゴールを入れれば勝てる。その熱意でミチルも気持ちを切り替えた。


「よし、やるぞお前ら!」

「「おう!」」


 カナタも呼応し、試合を再開する。このとき相手のポジションは、二人ともディフェンス。守備に寄せたもののキーパーはいない。彼はハヤトと攻めの作戦を立てた。


 ルミアがドリブルで進み、コトリメカを引きつける。ハヤトメカにはトモエメカがマークについているが、これは想定通り。カナタはルミアに指示を出す。


「ハヤトメカの前にパスだ!」


 ルミアは指示に従い誰もいない所にボールを出す。ハヤトとトモエのどちらが先に届くかの勝負だが、これは彼の得意分野。狙い通り、ダイレクトシュートを撃った。


 だがトモエメカがシュートを追い越し足でトラップし、ゴールを守った。


「なんて加速力だよ」

「改造の成果か……」


 動き出しはハヤトメカが先だったのに、段階的に加速してゴールラインに達する前に追い越した。初速を犠牲に得た最高速度、それがトモエの改造方針。先にボールを拾えば勝ち、なんて考えは甘かった。


「ルミア止めろ! そこならキーパーの邪魔にならない」


 得点するつもりでいたので阻止された後の作戦は無い。かといって守備をミチルに任せても同じ流れで失点する。

 だがルミアが動けば何とかなるかもしれない。さっき自主的にコースを塞ぎにいったときと異なり自軍ゴールまでの距離があるからミチルとしても動きやすいはず。さっきと指示が違うのはそういう背景だと伝えた。


 すぐにルミアは動く。狙いはボールを持つトモエメカではなく、先取点を決めたコトリメカ。そこへパスが通らないように移動した。


 トモエとコトリは目を合わせ頷き合うと、パスを出した。それはルミアの正面。だがカーブし、背後で移動していたコトリメカに届いた。これでキーパーと一対一だ。


「……アースブレイク」


 ルミアはコトリメカの背後で地面を踏み込み、地割れを起こす。地面の破片を浮かせて撃ち出し、コトリメカを攻撃した。体勢を崩し、ボールが転がる。


「今の、必殺技か」

「ナイス! 俺が取る」


 相手の無言の連携にやられたと思いきやルミアがシュートを防いだ。これが実力だと実感するカナタと、掴んだチャンスを繋ぎに動くハヤト。だが彼のメカを抜き去ったトモエメカにボールが渡った。


 そこからさらに加速しゴールに迫る。来るとミチルが身構えた通り、今度はトモエメカの必殺技だ。

 足でボールを掬い上げ、足の甲からボールに空気を送る。ボールがどんどん膨らみ、そして蹴り飛ばす。


「ヘビーバルーン!」


 風船から空気が抜けてジェット噴射するかのようにボールがゴールに襲いかかる。ミチルは今度はパンチングで返そうとしたがボールは割れず、またしても押し込まれた。これで0―2。そして前半終了のホイッスルが鳴った。インターバルの時間だ。



「俺たちのスピードもパワーも通用しない……」

「いや、一点目は俺のミスだ」


 チームが一人多いから無改造でちょうどいいハンデ、なんて過信が裏目に出た。だがスペックの差で勝負は決まらないとカナタは考える。ひとえに戦略。そこで一つ判断ミスを冒した。


「俺がルミアに下がれと言ったせいで、シュートを撃たせちまった」

「いや、それ言ったら二点目は俺のせいだ。せっかく止めてくれたのに、動き出しが遅れたせいで」


 二点差はカナタだけのせいではないとハヤトも自分の過ちを認める。ミチルも同じだった。

 

「いや、俺が一番駄目だ。止められないならゴールにいても仕方ねえ。いっそ三人で……」


 スタンバイしていても実力差で突破されるザルキーパー。そんなミチルが戦犯だと自覚する。それなら攻撃に力を入れた方がいいと思ったが、閃いた。


「待てよ。止められないなら、止められるようにすればいいか」


 ミチルはシュートに耐えるパワーが足りないことが失点の原因と気づくと、そのパワーを上げればいいと考えた。さっそく改造に取りかかる。


「よし、俺も」


 それを見てハヤトも改造を始める。方針はミチルと違うが、伸ばす要素は定まっている。一方でカナタは、どうすればいいか分からない。ただルミアの動きは悪くないと見受けられる。


「ルミア、良いディフェンスだったぜ」

「でも点入れられた。私がちゃんと拾っていれば」

「それは……向こうの執念が凄かった」


 コトリのシュートを未然に防いだポジション取りとブロック技。全部ルミアの自己判断によるもので、良い動きだったと褒める。

 だがルミアはその後失点に繋がったことを気にしており、責任を感じて浮かない顔だ。

 確かに奪ってボールをキープしていれば、仮にその後取られても前半終了で一点差のまま抑えられたかもしれない。だがカナタはそう責めない。ブロックされてもボールを繋ごうとしたコトリと、反応が早かったトモエが一枚上手だった。


「今度はボールをよく見ておけ。試合終わったらボールを拾えるよう特訓だ。俺が相手になる」


 今できることと試合後にできること。カナタは提案すると、ルミアは顔を上げ頷いた。見限られなくてよかったと安堵した。

 一方カナタは、起動したばかりで動きが鈍っているようにも感じ、練習せずとも後半で調子を取り戻せるかもしれないと考えた。



「よしできた」

「俺も」


 ルミアと話している間にミチルたちが改造を終わらせた。見た目は変わっていないが、短時間なので当然とも言える。けれども二人とも満足した顔で、性能は大きく進化したよう期待できる。


「どんなだ?」

「俺のはスピードアップ。適正電圧から少し上げた。一試合なら保つ」

「俺はリミッター解除。一試合二度まで使える大技のための」


 二人の方針は、一試合の負担が大きくなる代わりに瞬間的な能力を向上させること。試合時間の短さが、持続力というデメリットを帳消しにする。


「分かった。なら作戦は前半と同じで行こう。きっと通用するはずだ」


 パワーやスピードで張り合えるようになれば、作戦は変えなくても戦況は変わる。相手の必殺技や連携に驚かされたが、力押しで挽回は狙える。カナタの提案に二人とも賛成した。



 後半、ハヤトのキックオフで試合再開。ルミアがボールを運び、ハヤトが一人で駆け上がる。前半と同じくトモエメカがマークにつく。


 ルミアが出したパスは、さっきよりずっと奥に伸びる。これではハヤトメカは間に合わないとコトリは目測するが、改造で速度を上げたので届いた。

 そして無人のゴールへダイレクトシュート。トモエメカは足先で触れるも、枠外へ流せない。1―2、初得点だ。


「よし!」

「ルミア、ナイスパス」


 前半より三歩先を狙ってパスを出すよう指示を出したらルミアが応えてくれた。おかげで相手のブロックが決まる前にゴールに入れられた。


「ごめん一歩遅かったわ」

「大丈夫。ディフェンスがきついのは想定内だから」


 コトリは頭を切り替え攻めに動く。ハヤトのスピードは、結局オフェンスのみ有効なもの。取られても取り返せば試合に勝てる。まだ一点リードとは捉えず三点目を狙う。その後方からトモエメカがうねうねと迫る。コントローラーのレバーをガチャガチャする不規則な動きで直線に強いハヤトメカを振り切り、パスを受けた。


 そして再び必殺技のシュートを放つ。これを受けミチルは不敵に笑う。


「ハウンド・ザ・ハンド」


 メカの両手を牙の上下に見立て、挟むようにゴールをキャッチ。猟犬が噛みつくように潰すつもりで押して、シュートを止めた。反動でメカから煙が上がるが、後一発は技が使える。ルミアはメカが酷使される様を無言で見つめ、パスを受け取りに動く。


「止められた」

「マズいっ、ディフェンス!」


 シュートを防がれるのはコトリたちの想定外。そして相手にボールが渡るとハヤトが危険。しかし自慢のスピードで駆け抜け、ルミアからのパスを経て二点目を決めた。2―2で同点。まだ時間はある。



 コトリたちは作戦を変えた。キックオフから攻めず、自陣でボールを回す。


「逆転負けより引き分け狙いか」

「そうはさせねえ!」


 ミチルがメカを前線に上げたはゴールはガラ空きだが、三人がかりで押し込みにいく。攻防の末、彼らはコーナーキックのチャンスを得た。


 蹴るのはルミア。ミチルメカも上がっているが相手がそれぞれマークしている。だがこれで第三の選択肢、ゴールを狙える。


「今だ、直接叩き込め!」

「イエス、ボス」


 ルミアは弧を描くようにシュートを撃つ。だがコトリメカがヘディングで弾いた。ポストで跳ね返り、ゴール前に浮く。


 続けてルミアは拳を突き出し、トモエ目掛けてロケットパンチを放つ。


「おい! 避けろ!」


 いち早く気づいたカナタは、トモエに危険を告げる。すると彼女は片手で受け流し事なきを得た。代わりにコトリに命中し、倒れた。鈍い衝撃音と、体が倒れる音。試合は中断となり、カナタは慌てて駆け寄った。

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