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13話 コートの外と中

 1―1で折り返しの後半は相手のキックオフ。溜池(ためいけ)彼方(カナタ)たちの作戦会議の結果、ミチルメカはキーパーの位置に戻った。前半はキーパーのポジションながらフォワードの位置にいていざというときだけ下がってキャッチしていたが、それで一点取り返された。

 同じやられ方はしない。シュートは確実に止められる。そしたら一点目を取ったときと同様、キーパーも上がる三人全員攻撃でもう一度突き放す。


 田浦(たうら)夕雅(ユウガ)福俵(ふくたわら)天使(アツカ)は、カナタのチームの布陣変更を見て鼻で笑った。


「予想通りのフォーメーションだな」

「うん。シュートを止める気満々ね」


 今からのキックオフは、前半の1―0時点と同じ状況。そのときは佐倉(さくら)(ミチル)はメカをキーパー本来の位置に下げず、二点目を狙う作戦を取った。けれども相手に翻弄されて逆に点を入れられた。

 同じ手は食わないために布陣を変える。それは合理的だが単純で、相手の立場からも読めること。


「対策の対策くらい準備してるぜ」

「サクッと逆転しちゃおうよ」


 向こうがシュートを止めるつもりなら破ってしまうまで。ユウガメカのキックオフで後半が始まった。彼らのしたり顔を見てカナタは嫌な予感がしたが、彼はメカを操縦できない。ルミアの自我と、ミチルと鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)の操縦するメカに任せるしかない。

 ただ指示を出せる位置にいるから、目と頭を使って貢献する。そのために相手二人のメカと操縦する二人の動きは、しっかり追うと決意した。



 アツカはパスを受けた後メカを自陣に下げた。相手陣に突っ込んでくると構えていたルミアとハヤトは、一瞬足が止まる。


「チャンスだ奪うぞ!」


 ボールを奪う位置が相手ゴールに近いほど、そこからシュートが決まる確率は上がる。時間稼ぎのつもりかは知らないが、得点を狙うと判断しルミアとともにアツカメカに迫る。

 だが一方でユウガメカは駆け上がる。自陣で二人でパス回しをする動きではなく、二人チームなのでキーパーもいない。つまり今アツカがボールを取られたらゴールはガラ空きだ。


「三人で来たらチャンスだったかもね」


 アツカメカはコートを駆け回り、ルミアとハヤトメカから逃げる。さっきの布陣のままならここにミチルメカも加わって逃げ道が絞られ苦戦したかもしれない。そう煽り、拾い自軍を駆け回る。


「遅いぜ」


 だがハヤトメカが得意の初速で追いつく。ボールに足を伸ばすも、一歩早くアツカメカが外へ強く蹴り出した。自陣ゴールのポストで跳ね返り、前方離れた位置にボールが飛ぶ。


 危うくオウンゴールになるアツカの一人ワンツーに困惑したハヤトがメカの速度を落とした隙に、アツカメカは加速しボールを拾う。そこからドリブルで上がり、ユウガメカの元へと向かった。


「ルミアここに走れ! 二人を分……合流させるな。ハヤトは残れ」


 アツカメカまでフリーにしてミチルに任せるのは危ない。カナタはルミアに指示を出し、ユウガメカとの連動の阻止を図る。後はボールを前に飛ばしてハヤトに任せればいい。

 分断しろと言いたかったが、今までの攻撃的な解釈をするルミアのことを考えると物理的に分断しそうで不安になり、咄嗟に言い換えた。


 だがカナタの狙い通りにはいかなかった。間に合う前にさらに加速したアツカメカはトップスピードに達し、ルミアでも追いつけない。

 カナタは驚いたが、同時に相手の狙いに気づいた。アツカメカの加速は段階式。自陣へ下がったのは助走を確保し、相手陣に入った時点で最高速を出すためだったと。


 トップスピードから放たれるアツカメカのシュートは、必殺技ではないノーマルシュートながらも凄まじい威力となった。これをミチルメカは必殺技"ハウンド・ザ・ハンド"でがっちりとキャッチする。

 だがそのキーパー技はメカに出す力の制限を解除させて使う大技。自分でやってもそこまでの負担はないが、それは体を守るため無意識に力を抑えているから。けれどもメカならリミッターを解除できる。威力を上げて、代わりに使用可能回数が減る。そんな悪知恵で編み出した技ゆえに、この試合はもう使えない。


「やっぱり二回が限界か」

「じゃあここからが本番ね」


 限界が来ることはユウガたちも知っており、そうなってから点を取りにいくのがこの試合の作戦の軸。これまではキーパーがいたときは二回すべて防がれたが、この後は違う。今までのように止められることはない。だから今のシュートが入らなくてもポジティブだった。



「行くぞお前ら!」


 ミチルメカの腕はもう使えないが足は動く。ルミアにパスを出し、すかさず自分も上がった。守りに手を使えないのなら、攻めに足を使う。前の試合でもやった、背水の陣の攻撃に極振りスタイルだ。


 カナタは新しいスタイルでルミアに指示を出すべく周りを見渡す。彼のように操縦者はコートの外から広く見られる。だがルミアはコートの中で、背後の情報は掴めない。

 両者の視野の違いから、やるべきプレーにズレが生じる。ボールキープが難しいなら外へ弾く。それは外からは弾いた先に相手がいないと見えるから合理的だと思えても、中からは見えないわけで相手がいる可能性を考えて迷ってしまう。


 外から見える情報は正しい。だがそれでは中の自我が要らなく思えてしまう。サッカーをしているのはルミアだ。外から全部指示を出して、自我を奪ってはならない。


 それが前半で起こしたカナタのミス。ルミアが全面的に自分を信じて行動してくれる都合の良いメカと思っては駄目だ。自分に見えているものとルミアに見えているものの違いを把握して、ズレない連携を実現する。それがこの試合の勝利の鍵と捉え、実践に動く。


「コーナーへ逃げろ!」


 カナタの指示にルミアは迷わず応えた。ルミアの位置からはアツカメカが見えない。追ってきたときに備え、両者の距離が縮まるゴールではなく、追いつかれるまでに最も時間を稼げる相手陣の隅を目指す。

 ルミアとしてはそれがベストと思っていたところにカナタが同じ指示を出してくれたから、迷いなく走れる。

 本当はアツカメカは追ってきていないことは、ルミアが後ろを見る余裕ができたときに伝えればいい。結果的にゴールを目指すのが正解だったと気づいても、そのときはベストな選択をしたと胸を張っていいとカナタは伝えたい。だから外から見て妥当な指示は出さなかった。



「コーナーキック注意!」


 大船(おおふな)切裏(コトリ)はユウガに警戒を呼びかける。コトリは彼のチームメイトではなくただの同級生だが、私的に彼に肩入れしている。前にカナタたちと試合した際、ルミアがコーナーキックから直接ゴールを狙うシュートを撃ってきたのを知っているからこそ察知できた。

 ユウガは頷き、ルミアをゴールに近づけないよう位置取りを調整しつつ、唐突なシュートが来るかもしれないと念頭に置く。


 だが得点のチャンスだ。ルミアが時間を稼いだ間にミチルメカとハヤトメカがゴールを囲むようにスタンバイし、誰でもシュートを狙える。対してディフェンスはユウガメカのみ。アツカメカが棒立ちで前線に残っているのは裏目に出た。今そこにボールが渡ればキーパーのいないゴールに容易く入れられると判断しての選択だが、その三対一で囲んだ今、そんな機会は訪れない。


「俺に出せ!」


 ルミアはミチルの指示で一度ボールをミチルメカに預けた。そこから彼らは様子見をする。


「ユウガはシュートブロックの必殺技も持っている」

「ああ。安易に撃つと止められる」


 アツカメカが加勢に来る前にと焦って撃てば、それは彼女の思う壺。ユウガメカはキーパーではないが相手の必殺技シュートに対抗する手段を持たされている。強行突破は防がれると、前の彼らの試合を観戦して学んでいる。


「こっち!」


 ルミアは閃き、ボールをくれと呼びかける。パスをもらうと軽く蹴ってユウガメカに渡した。なぜ相手に、とミチルとハヤトは焦るも、カナタはルミアの意図に気づく。相手のディフェンスが厄介なら、逆にこちらがディフェンスになればいい。


 ルミアは間髪入れずディフェンス技"アースブレイク"でユウガメカからボールを奪う。必殺技を食らい一時硬直しユウガは操縦できなくなり、その隙にルミアはゴールへ押し込んだ。2―1、再びリードした。


「嘘!? 食らうの!?」

「そりゃキーパーのフリしたフィールドプレイヤーだからよ」


 キーパーにドリブル技やディフェンス技は撃てない。ゲーム染みた暗黙の了解があると思っていたユウガだが、仮にそうでもユウガメカはミチルメカと違いユニフォームがキーパーではない。ボールに手を出せばハンドと扱われるように、暗黙の了解が存在したところでユウガメカには適用されないのだ。


 そんなからくりを推測するコトリに、ユウガは反論できず、アツカは便乗し責任を擦りつけた。


「ユウガのせいだよー!」

「いやアツカが放ったらかしにしたせいでしょ!」


 コトリはアツカにユウガのフォローを促さなかった。一人で止めたら彼を褒めるし、やられたらアツカを責めるつもりでいたから。彼のパートナー失格だと、ここぞとばかりに煽り散らかす。



「ほら、もう点取り放題なんでしょ」

「そうよ! 取り返すのよ」


 とはいえ相手のミチルメカはもうキーパー技を使えない。さっきまでより楽に点を取れるから、失点の反省は不要だとアツカは開き直る。

 一方でカナタたちも相手の作戦は一度見た。わざと下がって助走を確保し、加速した状態でマッチアップすることで有利に崩すという作戦を。

 それを踏まえて、キックオフ後の初動を変更した。ハヤトメカはボールを見ずに相手陣へ切り込み、アツカメカの助走エリアを削る。ミチルも最初から相手に攻められることはないと割り切り、メカを前に出しルミアとともにディフェンダーの位置に着く。

 そんな各々の判断にルミアは困惑しつつも、これが彼らのサッカーなのだと受け止めた。


 ユウガとアツカは視線を交わす。すると無言で、アツカはメカを今度は前に走らせボールを運ぶ。ユウガメカはコートの中心に残る。


 アツカメカだけで攻めてくるのは初めて見るパターン。ミチルは動揺するも、彼女だけならルミアと二人がかりで止められると信じ、進路を塞ぎにいく。アツカメカは加速せず、強硬突破するようには思えなかったのがカナタは気になった。

 するとアツカはメカをターンさせ、ゴールと反対に向かって強いパスを放った。それはもはやシュートで、ユウガメカに向かって飛んでいく。一方ユウガメカは、足からいくつもの枷を生やした。結果、片足に重りがついた。


「"ビターネスロック"!」


 野球で重いバットだと飛距離が伸びるように、質量を上げてシュート力を上げる必殺技。枷を千切る弾みで突進するディフェンス技とは真逆で枷を重ねて重みで負担とパワーを上げる苦渋のシュート。それがユウガの編み出したシュート技。


 それはアツカのシュートを力業で撃ち返し、パワーを上げて相手のゴールへと飛び出した。二人の狙いは、彼のシュートの威力を上げることだったのだ。


「ルミア!」


 この威力はセンターラインからゴールまで届く。カナタはマズいと察し、ルミアにシュートブロックを頼む。名前を呼ぶだけで意図を汲み取ってくれると信じて。


 しかしズレて伝わった。ルミアはディフェンス技ではなくシュート技でブロックに挑む。"ビヨンドライトイヤーズ"。あらかじめ活かせたボールに向かって高く跳んで放つボレーシュート。

 双方のパワーがぶつかり合い、若干ルミアが押される。それでも踏ん張るルミアを、カナタは固唾をのんで見守る。体に負担のかかるシュート技で止めにいった理由は分からない。そうでないと駄目なのか、ストライカーとして貪欲に追加点を狙うべく撃ち返す気なのか。これもコートの外と中で見えるものが違うことが関係していると彼は捉える。そしてこれについては、中からの情報の方が正確に思えた。

 分からないが、ルミアが競り勝つのを願い、やがてかろうじてボールはゴールの外へ弾かれた。同時にルミアは吹き飛ばされ、受け身が間に合わずコートに落下した。


 だが試合は止まらない。アツカがこぼれ球を追い、ミチルが肉壁となって時間を稼ぐ。カナタはルミアが心配だが、そうなった頑張りを無駄にしないためにも試合を目で追う。

 やがてタイムアップ。2―1でカナタたちの勝利に終わった。

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