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11話 彼方

 溜池(ためいけ)彼方(カナタ)たちのキックオフで始まった彼らの三度目の試合。今までと違うキーパーなしの攻撃に極振りした布陣で、一度も相手をボールに触れさせない勢いで攻め潰しにいく。

 これまでキーパーだった佐倉(さくら)(ミチル)の武器はパワーと、獣のような果敢なプレー。彼の操縦するメカは、まるで彼自身のように獰猛さを宿して走っている。


 そして相手は一人少ない二人。元々人数差を承知で受けたこの試合。ただそれは、一人がキーパーな分フィールドでは二対二で互角という慢心もあったことだろう。そこに仕掛けるこの奇襲、カナタたち三人にとっての絶好の得点チャンスだ。


「動揺してる」

「だろうな」


 その情報をカナタはチームメイトに共有する。彼だけはメカを操縦せずメカの自我に任せている分、周りを見る余裕がある。ゆえに相手の表情から、想定外の事態を目の当たりにした反応だと読み取る。

 それを伝えた結果、味方の二人は勢いに乗る。ミチルも鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)も、点を取ることに執着する。そしていよいよ相手のディフェンスとマッチアップ。


 ハヤトとミチルは相手の試合を一度見ており、改造でどんな性能、どんな必殺技を持っているかデータを持っている。福俵(ふくたわら)天使(アツカ)のメカの武器は段階式の超加速。それは最初の試合で戦った戸塚(とつか)智絵(トモエ)のメカと同等の性能で、初速が武器のハヤトでは相性が悪い。抜き去ってもシュートに追いつかれるからだ。


 だからアツカメカの相手はミチルメカ。常にパワーで対抗し、ゴールまでドリブルで突っ込む。そんな彼に、アツカは必殺技で対抗した。メカの背中に翼と光輪が生え、空に飛び上がる。そしてミチルメカめがけて頭から落下し、光輪を打つ衝撃で吹き飛ばしにかかる。


「通さないわ"エンジェルハロー"!」

「だと思ったぜ」


 ミチルは食らう前に横にパスを出す。アツカメカの必殺技は不発に終わり、ボールはハヤトメカの元へ。ユウガメカも追うが、先に触ったのはハヤトメカ。だが田浦(たうら)夕雅(ユウガ)は平然としている。それは彼が、ボールを取られてからが勝負と認識しているため。


 ユウガメカは初速こそ控えめだがアツカメカ同様加速する。その変化は分かりやすくメカに表れる。


「行くぞ"スターファイア"」


 ユウガはコントローラーの縁のボタンを長押しして、彼のメカを炎に包んだ。それは焦がし苦しめるためではない。発動中はスピードが上がり、シュートとマッチアップ時の威力を上げるバフだ。そしてハヤトメカに迫るが、これは彼の想定内。


「でも遅えよ」

「……それはどうかな」


 加速したところでハヤトメカの初速に及ばない。離されるが、ユウガは諦めていない。時間経過でさらに加速し、結果二段階加速でハヤトメカの初速を超え、徐々に距離を詰めてボールを奪った。



「なんだそのスピード!? さっきやってなかったはず……」

「それで十分だっただけよ」


 データにないとハヤトは焦る。だが観戦する大船(おおふな)切裏(コトリ)はこれがユウガの実力と分かっており後方理解者ぶって頷く。彼女のメカとのマッチアップでは二段階まで上げる必要がなかった。

 けれども彼が打倒を掲げる相手にはそのスピードでは足りない。もう一段上があると読んでいたから、いざ見ても納得で済む。


「一旦ルミアに回せ」

「貰ったぜ」


 ハヤトだけでは難しいと判断したカナタはバックパスを提案する。二人のメカのスピードには及ばないものの、彼のパートナーのルミアがフォローに動いている。

 だがパスより先にユウガが取った。ルミアを抜き去る勢いで迫るが、ルミアはわざと正面を空けてディフェンス技をスタンバイしていた。


「行かせない」


 "アースブレイク"。地面の欠片を相手にぶつけた隙にボールを奪う必殺技。これをユウガから彼のメカが見えにくくなる位置に立って放つことで、相手の操作を妨害する。


「行くよユウガ!」

「えっちょっと」


 アツカはコントローラーを投げ捨て、翼を生やしてユウガの背後につく。返事を待たず両手で彼を抱えて飛び上がった。コントローラーはコトリの頭に命中し、痛いと叫ぶも二人の耳には届かない。


 おかげでユウガは視界が広がった。ルミアの必殺技を躱し、再び炎を纏って正面から抜き去る。そしてミチルメカが来るのも見える。



 マジか、とカナタは驚愕する。操作する人の目を封じる作戦はコトリ、トモエと試合した後に思いついたもの。その試合もユウガ、アツカに見られていない。つまり相手にとって初見のはずなのに、対抗策を思いついて実行まで間に合わせた。そんな適応能力を持つアツカの底知れない実力に驚いた。


「通すか」

「退け!」


 ミチルメカがスライディングでボールを弾きにかかるも、ユウガメカは踏ん張ってミチルメカを押し返した。力を力で捩じ伏せて、ゴールではなくコーナーへと駆けていく。


「後ろ来てる」

「見えてるぜ」


 今アツカはメカを動かせない。代わりにコートを俯瞰して注意を促す。言われてすぐに気づいたユウガは、さらにコーナーへと走らせる。真っ直ぐゴールを目指せばハヤトメカに追いつかれる。だから二段階目の加速に入れるよう彼との距離を稼ぐことを優先し、進路を選んである。


 そして読み通り、ハヤトメカを引き離した地点から安全にシュートを撃ち、キーパーのいないガラ空きのゴールにシュートを決めた。これで0―1。またしても相手チームに先制されてしまった。


「「やったあ」」


 ユウガはアツカに抱えられたままゴールを喜び合う。彼女の手は離せないからハイタッチはできなかった。



「……あれ、コントローラーは」

「ここよ」


 コトリはイライラしながらアツカの落とし物を掲げてアピールする。今日だけでルミアのロケットパンチとアツカの急降下頭突きを食らって散々な目に遭っているのにまた彼女にやられて、せっかくのユウガのゴールを素直に喜べないことに腹が立っていた。


「ごめんねコトリ。返してー」

「ユウガから離れなって!」


 加えてアツカにユウガへの密着を見せつけられている。自分と違って彼のことが好きではないのに、軽々しくボディタッチしていて不愉快だ。

 返すのは降りて両手が空いてからなので、八つ当たりながら言っていることは妥当だ。片手で抱えつつもう片方でキャッチするなんて言い張ろうにも、ユウガに当たるリスクがあってコトリには投げられない。

 そんな彼女の手元から、トモエがスッと抜き取った。


「行くよアツカ」

「ちょっとトモエ!?」


 特殊能力で投げるのは得意なトモエは躊躇なくコントローラーを放り投げた。アツカはそれを両手で取ろうとし、支えを失ったユウガは落ちていく。

 だが平気だった。トモエが落下点に潜り込み、彼の体をキャッチしてみせたのだ。


「大丈夫?」

「あ、ありがとう……凄えな、お前」


 ユウガが特殊能力者になってトモエと知り合ったのは僅か半年前のことなので、彼女のポテンシャルには驚かされる。アツカは彼女のことを分かったうえであっさり手離したのだと思うと、困惑してばかりの自分はまだまだ未熟だと実感した。



「……コトリ、もしかしてぶつけたのか」

「そう! 酷くない?」


 コートを見下ろしたとき、コトリが奇妙な動きをしているように見えた気がした。そして彼女の苛立ちようから、痛みか恐怖を味わったと推測する。

 コトリは意気揚々と頷いた。彼にとってのアツカの好感度を下げる絶好の機会と踏んで。

 そしてユウガは考えた。アツカのせいではあるが、彼女は自分を持ち上げるためにやってくれたこと。応援する友達に危害を加えて掴んだ得点など、認めては駄目だと捉えた。


「……ハヤト、皆。今のはノーゴールだ」

「は? なんでだよ」

「これぶつけたから、そこでプレーを止めるべきだった」


 ユウガは自分のゴールを取り消したいと相手に頼んだ。本来ならルミアを抜いた時点でファールになるはずで、得点は得られなかった。

 だから無効とすることで、迷惑をかけたプレーの償いに代えたいわけだ。


「……だったら俺からも謝る。わざとお前が見えにくいポジショニングをとったから」


 そうと聞くとカナタも責任を感じた。操縦する人の視界を妨害するようルミアに指示を出したのは彼だ。この事故の元凶はカナタとも言える。


「それに、気づいてやれなかった。皆と違って操縦しないから、自由なのに」


 また、もし放棄は回避できなかったとしてもコトリへの警告が間に合っていれば衝突は防げた。それが一番できる立場だったのは、唯一コントローラーを持たずメカを動かす必要のないカナタだ。コートの中しか見えていなかったせいだと思い込む。



「思えばそれも卑怯だな。お前だって、見えにくくて体傾けたら横の仲間とぶつかったかもしれないし」


 これは飛べるアツカが相手だから起こった事故とも言い切れない。ユウガ自身、視界を塞がれメカを見ようと急に動いたら、そばの味方や観客にぶつかりかねない。前の試合でも、水を噴出できる能力を持つ京橋(きょうばし)慧練(エレン)は噴水で自身を持ち上げて対抗した。もし足を踏み外していたら挫いていたかもしれない。

 

 そう考えると、カナタの作戦自体が良くない手口に思えた。ルミアの必殺技の欠点である、相手を止めてもマイボールにする調整が効かないことをカバーする良い案と思っていたが、リスクの考慮ができていなかったと反省する。


 そんな彼の姿を見てルミアは責任を感じた。自分がちゃんとボールを取れないから、破壊者として未熟だから、彼を困らせてしまっていると。



「ルミア、すまないがあのディフェンスは封印だ。相手の目を邪魔するのは危ない」


 カナタは最優先でルミアに作戦の禁止を告げた。代わりの策は思いついていないが、勝つことよりもう事故を繰り返さないことが優先だ。これは勝ち負けを決める争いではなく、メカサッカーコンテストというお祭りなのだから、楽しめないプレーは駄目だ。


「俺たちも、仲間も相手も皆が楽しめるような、そんなサッカーを考えよう」


 自分で思いつかないのならルミアにも頼りたい。カナタはコンセプトを伝えて協力を求めた。


「楽しめる?……」

「ああ。ここはそういうイベントだ」


 悔しいとは感じても、嫌だったとは思わない。どちらが敗者でもそう思えるような試合が理想だとカナタは告げる。そんなサッカーは、ルミアの記憶の隅から目覚めた。かつて一緒にいた、同様に自我を持ったメカのステルとの記憶を思い出した。世界征服を考えない、純粋にサッカーをしていたときの記憶を。



 試合は0―0の振り出しに戻りユウガのボールで再開した。アツカにパスを出すと、カナタたち三人も動き出す。アツカメカが加速する前に、ハヤトメカがボールを取った。しかし必殺技"エンジェルハロー"ですぐに取り返される。

 そこから段々と加速してゴールに迫る。だがミチルメカがキーパーの位置に戻っている。シュートは必殺技"ハウンド・ザ・ハンド"に止められた。


「ごめん」

「いや使わせただけ上出来」


 アツカはゴールを逃したことを謝るも、ユウガはポジティブに返す。ミチルメカの必殺技は負担が大きく何発も使えないとコトリから聞いている。現にメカから煙が出ている。実際あと一発がこの試合での限界だ。


 そしてボールはルミアへ。ハヤトメカへのパスはアツカメカに警戒されていて出せない。一人で進もうにもユウガメカが阻んでくる。またしても"スターファイア"で全体的に能力を上げてくる。

 ルミアは練習した罠を仕掛ける。あえてボールを遠くにドリブルで蹴り、先にユウガメカに触れさせる。すかさず"アースブレイク"で取り返し、抜き去った。


「アツカ頼む」

「オーケー!」


 ゴールに迫るルミアに、アツカメカが"エンジェルハロー"で迫る。飛んで急降下の衝撃で吹き飛ばす直前、ルミアが跳んで回避した。空振りの地響きがコートに響く。


 自身も空中に跳んで放つボレーシュート。蹴った瞬間にボールは光り、それを際立たせるように辺りが宇宙に変わる。雑誌やテレビでも見たことのない何光年も彼方の宇宙、いくつもの惑星(プラネット)と、その中心の矮星(ドワーフ)。ボールを矮星に見立て、ゴールへと蹴り落とすシュート技。


「ビヨンドライトイヤーズ!」


 ルミアの叫びとともに、ゴールへと深く突き刺さる。正真正銘の先制点、1―0。ルミア初のゴールは、カナタの期待の遥か上を行くもので、彼はしばし呆然とするも、そのゴールにガッツポーズをして喜んだ。

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