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1話 破壊者《ストライカー》

 夜の連絡通路を歩く謎の人物と人型の薄緑色のメカ。メカは似た体格の銀色のメカを抱えて運んでいる。これは失敗作。一部の記憶を消して眠らせてある。ボスであるこの人物の命令で処分する。


「処分してまいります。音で誰かに気づかれたら、私を置いて逃げてください」

「分かった。任せたぞ」


 このメカには自我がある。ボスである人間の命令に従うが、意思をもって背くこともある。現に、主の身を案じる裏で失敗作の処分の瞬間を見せないようにしている。処分に立ち会わせるともしも一般人に察知された際に逃げ道がないからだ。

 ボスは納得し、通路で待機した。


 メカは駐車場に侵入し、失敗作を壁によりかからせる。そして手を伸ばし、時空を歪めて存在を不可視にした。

 さらに用意していたガラクタをばら撒くと、壁を強く殴ってヒビを入れた。そのガラクタは失敗作と同じ色で、不可視にしたことであたかも粉々にしたように見える。



「処分は済んだか?」

「はいボス。この通り破壊して隠しました」


 壁を壊す音を聞いてやってきたボスに嘘をついた。隠しただけで生かしている。


「余計なことをするメカなど必要ない。あの破壊力を手放すのは惜しいが、データは有効に使わせてもらおう」


 失敗作と呼ばれる所以は、ボスの指示を曲解することと、持ち前の破壊力で自分たちに被害が出ること。だから処分し、ノウハウを活かしてまた開発する。同等の破壊力を持った有能なメカを。


「我がメカたちによる世界征服に」


 高笑いするボスの背後で、メカはこっそり呟いた。時空よ戻れ。すると失敗作は姿を現した。抱えてきたときのまま、眠って動かない。

 もう会うことはない。どこかで安全に暮らせることを祈り、ボスとともにラボへと戻った。



「メカサッカーコンテストだ!」

「やっと思い出したか」


 溜池(ためいけ)彼方(カナタ)は溜め息をつく。教室で彼に話しかけた同級生、野田(のだ)心鉄(コテツ)は約束を破った。二人でイベントにエントリーしていたのに、他の友達と用事を取りつけた。


 カナタはコテツのブッキングに気づいた時点で何か忘れていないかと問いかけており、自力で気づくまで答えは教えなかった。そして今、約束という答えに気づいたところだ。


「すまん! 俺は行けない」

「いいって。俺も別にどうしても行きたいわけじゃ」

「そこで代わりといっては何だけど……」


 カナタとしては、先にした自分との約束を優先するよう強要する気はない。思い出してくれればそれでよかった。

 当日支給される人型メカをコントローラーで操作し、二人か三人でチームを組んでサッカーをする。それがそのイベント、メカサッカーコンテストだ。当日までに準備しておくものはないから、キャンセルによる影響は出られなくなることだけだ。


 だがコテツは代替案を用意してある。


「お前と同じ状況の奴と組んで出てみないか?」

「同じ? 組む相手がいないってことか」


 それは他の人と組んでエントリーすること。カナタのように一人になってしまった者同士でチームになれば、予定通り出られる。



「実は俺と出掛ける奴もこれに出ること忘れててさ。臨台(りんだい)中っていう近所の中学の」


 コテツの用事に同行する相手は他校生の同学年、鎌ヶ谷(かまがや)(イワイ)。彼は同学年の兄、鎌ヶ谷(かまがや)(ハヤト)とエントリーしていた。カナタと同じ状況というのはハヤトのことだ。

 だが誰であろうと、カナタはその中学校の人と面識がない。


「俺の知らない人じゃん。まあいいけど」

「だと思ってもう一人呼んである。大睛(おおせい)中の佐倉(さくら)(ミチル)っていう」

「つまり三人で出てもいいし、俺抜きの二人でもいいってことか」

「そういうこと」


 そのイベントは二人か三人一組でエントリーする。カナタが面識のない人たちと組みたくないのなら、キャンセルしてもハヤトたちは参加できるというわけだ。


「出るよ、俺は」

「了解。二人には俺から伝えておくから」


 メカはイベント当日に支給される。前日までにやっておくことはない。カナタは他校生との繋がりがあるコテツに任せた。


「ところでその二人は仲良いの?」

「知り合ったのはつい先月だけど、まあ悪くはないか」

「じゃあ当日、俺は現地で合流するって伝えてくれ」

「了解」


 現地集合か駅で待ち合わせかは他の二人に任せる。面識のないカナタは二人に合わせず現地に向かう。そう伝えるようコテツに頼むと、二つ返事で応じてくれた。


「あとさ、そいつらもお前と同じで能力者なのか?」

「ああ、三人ともそうだ」

「じゃあ持ってないのは俺だけか」


 コテツと他校生の繋がりは、特殊能力を持っていること。突然目覚めるもので、島の同学年五万人に三十人弱という希少な存在。

 カナタは思った。自分にも能力が目覚めたら、コテツのように世界が広がるのかと。


「まあカナタみたいな人が大多数だし気にするなって。それに能力を得たばかりにとんでもない出来事に巻き込まれることだってあるんだぜ」

「とんでもない出来事ねえ……」


 カナタの毎日は平穏で地味で退屈だ。コテツは能力の覚醒を一概に喜んでいないが充実しているように見受けられる。

 週末のイベントが覚醒のきっかけになれたら、なんて微かな期待を込めた。



 そして当日、カナタは約束通り一人で会場に向かう。まずはコンビニでカステラを買う。カット済みで、一袋に三切れ。吸収の速い糖質を多く含み、試合前の補食に適している。

 今回サッカーするのはメカでカナタはあくまで操縦する側だが、気合いを入れるときは食べるのが彼のルーティン。


 買い物を済ませたら連絡通路を渡り、会場へと向かう。その途中、銀色の小さい金属を蹴った音がして、見下ろしてそれを拾った。


「何かのパーツ? あの中か?……」


 振り向くと同じ色で似た形状のガラクタが駐車場に続いている。きっと一部が風に流されてきたのだろう。カナタは駐車場の中が気になったが、利用者以外立入り禁止の注意書きに足が止まる。

 けれども好奇心を抑えきれず踏み込んだ。ガラクタを拾い集めて駐車場に寄り道した。


「人!? いや、メカか……」


 カナタは暗くて人が死んでいると思い心臓が一瞬止まった。だがそれは人型のメカで、体色は拾ったガラクタと同じ。きっと見つける前に拾っていたおかげで、色を見てすぐにそれらと同じだと認識し、人でなくメカと判別できたのだろう。


「コイツと似てるって気づけなかったら死体に見せて腰抜かしていたぜ。まったく」


 なんて呟きながらカナタはメカの様子を確認すると、色々と奇妙な点に気づく。まずはメカがよりかかる壁のヘコみ。次にメカに損傷がなく、拾ったガラクタはどこから外れたものか分からない。


「これ……例のコンテストの支給メカか?」


 体格、重量。カナタが今から参加するイベントで使用するメカに近い。ルールではそのまま使っても改造してもよく、このメカは改造済。区別がつく色をしている。


「でもコントローラーが……もしかしてこれか?」


 ただメカを動かす部品がない。ひょっとしたら今拾ったガラクタを組み立てたら完成するのかと考えた。イベント本部に届ければ、何か分かるかもしれない。自力でメカを運べると分かると、背負って歩いて向かった。


 のしかかるメカの重さとは裏腹に、何かが起こる期待で足取りは軽かった。



 開場した会場を、モニターから眺めるボスと薄緑の人型メカ。続々と集まる参加者を見て、彼らを知らないうちに利用すると思うと不敵に笑う。


「いよいよ始まるのだな。新しい破壊者(ストライカー)を創り出す計画が」

「はい、ボス」


 薄緑メカは映像に映ったカナタとその背中の銀色メカに気づき、室内の時空を歪めた。これでこのモニターからはそのメカが見えなくなる。


「どうかしたか」

「はい、気になる参加者が見えたもので」


 ボスには見つからなかった。そして挙動をごまかす発言も、違う解釈をされ疑われずに済んだ。


「あの中には特殊能力者もいる。彼らがどんなアイディアを吹き込んでくれるか、楽しみだ」


 ハヤトやミチルなど到着している参加者を見てボスは、彼らの実力や経験がメカの改造にどう表れるか興味がある。ゆくゆくは彼らの作品を、選手ではなく兵器として運用させてもらう。


「では私は開会式に。失礼します」

「うむ。下がれ」


 薄緑メカはカナタと銀色メカに接触するべく、会場へと移動した。



 イベント会場に到着したカナタは、まず本部を探す。チームメイトとの合流より、拾ったメカの報告が優先だ。

 だが彼が着いた途端、会場がざわつく。動かない人型のメカを背負って来たのだから、注目を浴びるのは仕方ない。

 悪目立ちを避けるべく、一直線ではなく通りやすい道を探してジグザグに本部に向かった。


「あいつじゃないか? 人背負っている」

「ああ、確かに」


 ハヤトとミチルはコテツから貰ったカナタの写真と本人を見比べて、合ってそうだと確かめた。ただ遠目で見ているから背負われているのがメカとは気づかない。


「何かあったのかな」

「只者じゃなさそうだ。とりあえず、行ってみようぜ」

 

 メカは当日支給なので手ぶらでいいイベントに人を背負ってくる。そんなカナタの意外性が、このイベントで何かを起こす存在になりそうな予感がして、楽しくなってきた。



「会場のそばで拾ったのですが」

「去年こんなのあったか?」

「いや……知らない」


 カナタはまず、このメカに心当たりがあるか尋ねた。なければないで、使えるか確かめるためにコントローラーを手に入れたい。今度はその点を相談しようとしたとき、薄緑メカがやってきた。


「ステルさんは知ってます?」

「……えっ、メカ!?」


 本部の人がステルと呼んだ相手は人でなくメカ。歩き方や体格で一目瞭然だ。カナタは歩いてきたことに驚いたが、誰かが操作しているのなら自然だと気づき、落ち着いた。


「あなたが拾ってくれたのね」

「喋った!?」

「ああ、私は話せるメカです。そのメカと一緒で」


 ただメカが声を出せるとまでは思わず、まるで人のように平然と話し掛けてきてまた驚いた。ただ声色は機械らしく電子音で、大人の女性っぽさがある。

 すると薄緑メカのステルは、自分が支給メカと違うと明かし、それはカナタが連れてきたメカも同じだと告げる。


「あとこれ、組み立てたらコントローラーになるのかなと」

「コントローラーはありません。私たちはひとりでに動き喋ります」


 カナタはステルなら何か知ってそうだと思い、拾ったガラクタを見せる。それは銀色メカを破壊したカモフラージュに自ら用意したもの。起動や操縦に必要ない。



「……ひとりでに? 誰かが操作しているんじゃ」

「その通りです。命令を聞かないこともありますね」

「じゃあ、これでエントリーはできないってことか」

「いえ、それはできます。私もそうですから」


 普通の支給メカと違い自分で操縦する形式ではないものの、同じように出場はできる。ステル自身もそのタイプだと聞くと、カナタは拾ったメカをどうするかという懸念点がなくなった。


「なら俺はコイツと出ます。どうすれば動きますか」

「五千歩連れ歩きます」

「五千……」

「今回は特例で、私が起動させますから」


 隠したメカが人に見つかり、不用意に触れられて起動されると困る。そこでステルは二パターン用意した。たくさん連れ歩くか、権限をもつ者が触れるか。


 カナタの決意を信じたので、今回は後者で起動した。すると目が開き、自力で立ち上がった。


「おはようルミア」

「……誰? どこ?」


 言葉は話せるが記憶がない。ステルのことも忘れていた。カナタはメカの声を聞いて、同い年の女の子みたいだと思った。似た体格のステルはもう少し大人な感じなこともあり、二人はまるで姉妹に見える。

 そしてしれっと名前もルミアだと明かされた。


「記憶がないようですが、あなたはサッカーをするメカです」

「サッカー……」


 ステルは本部からサッカーボールを持ち出すと、軽く蹴ってルミアの足元にパスを出した。するとルミアは凄まじい勢いで蹴り返し、ステルは片手でキャッチする。一瞬のトンデモ展開にカナタは絶句し、けれどもルミアの性能は本物だと理解した。

 名前や過去が思い出せないだけで、サッカーメカという立場は体が覚えているのだろう。



「凄えパワーだなあ。そいつを使うのか?」

「君がカナタだよね? 俺はミチル、こっちはハヤト」

「……ああ、チームメイトの」


 ルミアのキックを見たハヤトたちがカナタに声をかけてきた。二人がチームメイトと気づくと軽く挨拶し、ルミアをどうするか改めて考える。

 

「サッカーをすれば、この子は色々思い出すと思います。カナタさん、どうしますか」


 カナタは支給メカを持ってきたステルに選択を迫られる。ルミアとエントリーすると宣言したが、目覚めたそれを見た後で選び直すチャンスをくれた。

 ルミアと支給メカ、どちらを選ぶか。そのとき彼の脳裏に浮かんだのは、ルミアを見つけたときのこと。暗い駐車場、ばら撒かれた謎のガラクタ、そして失われた記憶。


「カナタ、俺らのことは気にせず決めていいぜ」

「ああ。お前が掴んだチャンスだからな」

「チャンス……」


 ハヤトたちはカナタの判断に任せた。せっかくの機会を、初対面のチームメイトに気を使うからなんて理由で逃してほしくない。

 そしてカナタ自身も、周りと違う挑戦をしたい気持ちが強い。



「ルミア。俺で良ければ組んでくれるか」


 けれどもカナタはルミアに判断を委ねた。組みたいと伝え手を差し出し、掴むか払うかで答えを聞く。無視拒絶されたら、それまでだと割り切って。


 そしてルミアは手をカナタの手に乗せた。握る指はないが、触れにいったそれが答え。これで彼の選択は決定した。


「決まりですね。チームも揃ったことですし、受付は済ませておきます。皆さんは開会式に向かってください。終わったらメカを支給します」


 ステルの指示でカナタはルミアとチームメイトと共に整列に向かう。その間、カナタは二人にルミアとの出会いを聞かれ、来る途中の出来事を説明した。二人に心当たりはなく、無関係だった。

 だがきっとこのイベントを通じてルミアは思い出せるだろう。そんな予感がするなか、いよいよメカサッカーコンテストの開会式が始まった。

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