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7話 転校生

「ふぅ~~~、やっぱりここが一番落ち着くよ。」


教室の一番後ろの窓側の席、ここが勇気の席だったりする。

休み時間の間はその席で日向ぼっこをしながら、1人うとうとするのが日課になっている。

基本、友達がいないボッチ人生まっしぐらの勇気にとっては、この場所が誰からも干渉されにくく悠々ボッチライフを過ごせるところだ。


だが!


「おい、勇気!」


勇気の弛緩していた空気を引き締めるような声が響く。


「何だ、大河か・・・」


やる気の無さそうな表情で勇気がその声の人物へと顔を上げた。

勇気の視線の先にはキラッと白い歯が輝くイケメンが立っていて、爽やかな笑顔を勇気に向けていた。

だが、声をかけられた勇気は『面倒くさい』と言わんばかりの態度で向き直る。


「聞いたか?」


大河と呼ばれた少年がスッと目を細めジッと勇気を見つめた。


「何を?」


やる気の無い勇気の態度とは正反対に大河は勇気へとズイッと顔を近づける。


「今日、転校生が来るって話だよ。それも2人な!」


「転校生?」


「そう!俺は見ていないけどな。正雄がさ、用があって職員室に行ったらな、その話を美奈ちゃんに言われたってよ!その時は1人だけだったけど、校長室から女の子が出てきたって!それがな!すっげえ可愛い子って話だ。正雄がその子を見て一目惚れしたみたいだぞ。」



(まさか?)



勇気にはピンポイントで思い当たる事があった。


(転校生はやっぱりほむらの事だよな。だけど、もう1人って?)



・・・



「あっ!」


勇気が何かを思い出したのか小さく声を上げた。


「おい、勇気・・・、お前、何か知っているのか?その態度はどうもそんな感じだぞ。」


何で知っている!と言いたげな表情で大河が勇気に迫る。



ちなみに・・・


大河とは?


本名 四条 大河 ♂


勇気とは小学生からの付き合いで、勇気の数少ない(ほっとけ!)友人の1人である。

特に仲が良く親友と言っても差し支えない程の関係。

高身長にかなりのイケメン。

スポーツ万能で特に剣道が得意。ちなみにサッカー部の顧問から勧誘が来るくらいにサッカーも上手だったりする。

勇気とは正反対なのになぜかウマが合いとても仲が良い。クラスで一番モテる男。

だからといって女たらしでなく、彼女一筋の好青年である。



「そ、それはな・・・」


「こら!大河!」


大河の後ろから声が聞こえた。

とても可愛らしい声だ。


「唯!」


大河が振り向き驚いている。


声の主はほむらにも劣らない美少女だった。

腰に手を当て少しムスッとしている。


「い、いや・・・、これはな・・・」


大河が唯と呼んだ少女に対しあたふたと慌てていた。


「大河~~~、私という可愛い彼女がいるのに他の女の人の話をするの?」


じわじわと唯が大河に迫る。


唯の圧に押され大河が少しづつ下がっていった。


「い、いや・・・、正雄がさ・・・、とんでもない可愛い子が・・・」


「人のせいにしない!私がいるのに浮気でもするつもり?」


唯がピシャリと言うと大河が力無く項垂れた。


「そ、それは無いけど・・・」



(本当に仲がいいカップルだよな。)


目の前で繰り広げられるイチャイチャに溜息しか出ない勇気だった。



キンコ~ン!


始業のチャイムが鳴った。


「お!授業が始まるな。唯、この話は今度な!」


「もぉ!逃げたな!」


「勇気、後で教えてくれな。女に興味が無かったお前がそんな態度なんだ。気になるよ。」


ニヤリと大河が微笑えむ。

そんな笑顔に周りの女生徒達の顔が赤くなった。


(大河って俺と違って本当にモテるよな。俺はこんなのだしモテる訳ないんだけどな。)


そう思っていた勇気だったが!

直後にまさかの事態になるとは想像もしていなかった。



ガラッ!



教室のドアが開いた。


小柄な少女がおずおずと入ってくる。

見た目は勇気達と同じように高校生と言われても、素直に信じてしまう程の少女だった。


しかし、勇気達と違いスーツを着ている。

そして黒板前の教壇に立った。



長谷川 美奈 ♀ 25歳独身 彼氏いない歴=年齢


勇気達のクラスの担任である。

小動物のような雰囲気があり、生徒からは人気が高い。

どう見ても高校生にしか見えず、夜にコンビニへ買い物にでも出かけると、間違えて補導されてしまう事も多い。

その都度、免許証を提示するのだが、なかなか信じてもらえない可哀想な人。

クラスの生徒からは『美奈ちゃん』や『美奈ちゃん先生』と呼ばれているが、決してバカにされる事は無く、見た目から逆に生徒たちの方が彼女を守ってあげたいと思われていたりする。



「えーと、みなさん、今日は転校生を紹介します。」


その言葉に教室がざわめく。


開きっぱなしの扉から1人の少女が教室へと入ってきた。


ザワザワしていた教室がピタッと静かになる。


勇気が溜息をする。



(やっぱり・・・)



顔を上げると担任の先生の隣に立っているほむらと目が合う。


ほむらがニコッと微笑み手を軽く振った。



次の瞬間!



男子生徒全員が勇気へと殺意の籠った視線を投げかけた。


【何でお前がこの子と知り合いなんだ?どういう訳なのかさっさと吐け!】


そんな言葉が全方位から聞こえるような錯覚に陥りそうだった。

女神すら退ける強さを誇る勇気だけど、今の男達のプレッシャーはハンパない!

タラリと額から汗が流れる。


(ほむら・・・、頼むから大人しくしてくれよ・・・)


切に願う勇気だった。



「突然だけど、今日から彼女がこのクラスで一緒に勉強する事になりました。それでは、日影ほむらさん、自己紹介をお願いしますね。」


先生がほむらの名前をフルネームで紹介すると、男子生徒はそれで勇気の関係者だとすぐに察知した。

しかもだ、彼女が先生の隣に立った時に勇気に手を振っているし、2人の関係はとても良いのだろうと理解される。

またもや男子生徒からの視線が勇気に集中してしまった。


(おいおい・・・、普通は双子や兄妹なんかは一緒の教室にしないものだぞ。それなのに一緒にするってのは揉め事の匂いがプンプンするよ。)


これからの学園生活に不安を感じる勇気だった。



「詰んだ・・・、俺の目立たないスローライフが・・・」



ガックリと項垂れる勇気であった。


その予感はすぐに当たってしまった。


ほむらの席は大河の彼女である唯の隣だったのは、勇気にとっては救いだったかもしれない。



だけど・・・


休み時間に突入した瞬間!


勇気の机の周りにはクラスほとんどの男子生徒が集まってきた。

何人かは勇気の近くに行かずほむらへと特攻をかけようとしていたが、ことごとく唯の鉄壁の防御で空しく玉砕してしまった。

さすが勇気の数少ない友達でしかも親友の大河の彼女だけある。

ほむらの迷惑=勇気の迷惑としっかり図式が出来上がっていたので、ほむらに関してだけは平和な休み時間となった。


その分、勇気にとっては大変な状況となってしまったが・・・


普段はほとんど絡みが無いはずなのに、


いきなり「親友よ!」と馴れ馴れしく来る奴

ひたすら「ほむらを俺に紹介してくれ!」と頼み込む奴

中には土下座までする奴もいたが・・・


全てがほむら目当てで押しかけてくる連中ばかりだった。


そんな状況だったが、


「お前等!勇気が迷惑してるだろうが!」


そう言って勇気の机の前に椅子を置き、群がる男子生徒を大河が追い払った。


『友情って良いよなぁ~~~~~』


心から大河に感謝している勇気であった。



しばらくしてからほむらが唯と一緒に勇気のところまで椅子を持ってきて4人が集まって座った。

鉄壁の防御を誇る大河と唯のカップルのおかげもあって、誰もこの集まりには近づけず遠巻きに見ているだけしか出来ない。


大河がほむらをまじまじと見つめる。

決していやらしい目で見ていないと本人の名誉の為に言っておく。


「へぇ~、この子が勇気の新しい妹ってか・・・、まさかお前の父ちゃんが再婚してたってな。知らんかったわ。」


「俺も知らんかったわ・・・、親父なりの俺へのサプライズかもしれん。」



「ん?」



大河が急に首を傾げる。


「なぁ?」


「どうした?」


不思議そうな表情で大河が勇気の顔を見ている。


「お前ってさ、自分の父親の事、昨日まで『父さん』って呼んでいたよな?何で急に呼び方を変えた?しかも『僕』から『俺』に変わったように聞こえた気が・・・」


ギクッ!


勇気が一瞬だけピクンと震える。


「何かな、今、俺の前にいるお前と、昨日までのお前と違う気がする・・・」


その言葉で2人の間に気まずい空気が流れる。



「「・・・」」



「色々とあったんだよ・・・」


ボソッと勇気が呟いた。



「ねぇねぇ、勇気、どうしたのよ?」


2人の重苦しい沈黙の空気ををほむらが明るい声で払う。


「い、いや・・・、何でもない・・・」


サッと勇気がほむらへ向けていた視線を逸らした。


(へぇ~)


ほむらが勇気の少し重苦しい雰囲気を感じ取ったのかクスッと小さく微笑んだ。



「勇気、ねぇ~」



ガバッとほむらが勇気の背中に抱き着く。



「「「えぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!」」」



教室にいた男子生徒全員(大河を除く)の悲鳴が上がった。


「お!おい!ほむら!お前なぁああああああ!」


さすがに勇気の顔も真っ赤になってしまった。


そんな様子の勇気を見ながら嬉しそうに微笑んでいるほむらが勇気の耳元に顔を近づけた。


「勇気、私達は兄妹なのよ。これはスキンシップ、みんなやっていることでしょう?」


「違うわ!お前、この世界に来てから妙に・・・」


勇気が突然黙り込んでしまう。


「ほむら、スマン・・・、俺のせいでこうなってしまったのに・・・」


しかし、ほむらが微笑んだ。

そっと勇気以外には聞こえないように囁いた。


「気にしないの。私はね、勇気に感謝しているの。今の私、普通の人間ほむらとしているのが楽しいのよ。」


「そうか・・・」



「おいおい・・・、いつまでイチャイチャしているんだ、目の毒だぞ。」


呆れた表情の大河が2人を見ている。

隣の唯は目を輝かせ凝視していたが・・・


「わ!悪い!」


2人が慌てて周りを見ると・・・


殆どの男子生徒が涙を流しながら床に蹲っていた。


「兄妹でもあれはないぞぉぉぉ・・・」

「我らの天使が陰キャの勇気に取られる?」

「目の前の現実を信じたくない・・・」

「あの胸に抱かれたい・・・」


etc・・・


勇気とほむらが目を合わせる。


((何があった?))



ガラッ!


そろそろ休み時間も終わりになっていたが、先生が突然ドアを開け入ってくる。


「勇気君、ほむらさん、校長先生が呼んでいるわよ。すぐに来てって。」


2人が頷き教室から出て行った。





「ねぇねぇ、大河・・・」


唯がとてもニヤニヤした顔で大河を見ている。


「唯、何だよ?その気持ち悪い笑顔は?」


「だってねぇ~、勇気君はその気は無さそうだけど、ほむらちゃんはどう見ても勇気君にべた惚れよ。私の勘が間違い無いって言っているわ。」


「だけど、あいつらって兄妹じゃないか?しかもだ、昨日、初めて知り合ったと勇気が言っていたぞ。」


大河の言葉に唯がニヤリと頷いた。


「あの2人の雰囲気を見ているとね、昨日初めて会った感じではないわ。前から知っている感じよ。それもかなり親密にね。」


唯の分析はあながち間違えていない。

確かに勇気とほむらは知り合ってからそう時間は経過していないが、女神と一緒に対決し一度はお互いに死を覚悟した経緯がある。

そんな事があったのだ、ほむらが勇気を意識しない訳がない。


「それとね、あの2人は『義理』の兄妹なのよ!それってどいうい事か分かる?」


「まさか?」


大河の言葉に唯がグッと拳を持ち上げた。


「私はね、ほむらちゃんを応援するわ。さっき、少しだけしか話していないけど、お互いにとても気が合うみたいなのよ。今度の休みの日にほむらちゃんのところに遊びに行く約束までしたからね。そんなほむらちゃんが好きな勇気君、絶対に私がくっつけてあげる!義理なら兄妹だろうが『『結婚!』』は可能よ!私が恋のキューピットね。ふふふ・・・、やる気が出たわ!」


大河の目には何故か唯の後ろにメラメラと燃え上がる炎が見えた気がした。


「はぁ・・・」


とても疲れた感じで大河が溜息をする。


「頼むから俺を巻き込まんでくれよ・・・、勇気・・・、唯が余計な事するわ。すまん・・・」


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やる気倍増になります。

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