3話 勇者VS女神①
「そうかい!あのクソ女神が現れたってか!」
男が獰猛な笑みを浮かべた。
ゆらりと城の外に続くバルコニーへ歩み始める。
「ちょっと待て!いくらお主でも1人であの女神に挑むのは無謀だぞ!腐っても上級神の1柱だからな!」
しかし、男は魔王へニヤリと笑う。
「心配するな。俺はこの日の為に死にもの狂いで鍛えてきたんだ。あいつに復讐する!その気持ちだけでな!」
「お主の気持ちは良く分かった。」
魔王がボソッと呟いた。
「それとだ・・・」
スッと男の目の前へと移動する。
「約束しろ、必ず生き残るとな。あの女神を倒すのは妾達の悲願だった。お主の底が見えない強さならそれが可能かもしれん。だが、それでも不安なのだ。だからな・・・」
ジッと魔王が男の顔を見つめた。
「妾の名前は『ホムラ』だ。お主の名前を教えはもらえないか?」
「勇気だ・・・」
男がぶっきらぼうに話す。
「『ユウキ』・・・、良い名前だな。」
ホムラがうっとりとした目で両手を胸に当てた。
「お主の名前、決して忘れないぞ。お主なら・・・、妾達の長きに渡る悲願を本当に果たしてくれるかもしれん。どうしてだろうな、お主を見ていると不思議とそう思えてくる。あの女神を相手にして絶望的な状況なのにな。」
「ここまで期待されると頑張らない訳にいかないな。任せろ!あんたこそこの世界に必要な存在だ。2度と俺のような人間を出さない為にも、あの女神をぶっ潰してやるぜ!」
一気にバルコニーまで移動し、そのバルコニーから外へと飛び出す。
かなりの高さから飛び降りたが、しなやかに音も立てずに地面へと降り立った。
グルっと周りを見渡しボソッと呟く。
「ここだとアレコレと被害が出てしまいそうだな。ならば・・・」
十数メートルはあろう城壁を一気に飛び越え、城下町の中をあっという間に走り去って外へと飛び出した。
「速い!速過ぎる・・・、あやつは本当に人間か?しかもだ!この城と城下町に被害が出ないように、女神との戦いの場所まで気を配ってくれるとは・・・、ユウキよ!妾がお主と女神の戦いを見届けるぞ!」
ホムラもユウキと同じようにバルコニーから外に飛び出し勇気の後を追い始めた。
「魔王様!私もお供します!」
いつの間にか目を覚ましたカーミラもホムラの後を追い始めた。
「この辺りなら問題無さそうだな。」
開けた大きな草原の中央で勇気が足を止める。
バキバキ・・・
突然、空が割れる。
割れた亀裂の中は光すら発していない漆黒の空間が広がっていた。
その中から黄金の光を纏った人物が現れる。
「来たか?」
光を纏った人物は・・・
大きな金色に輝く翼を広げ空中に浮かんでいた。
眼下の勇気を見てニヤリと笑う。
「あなたの存在は不要だとあの国に神託を下したのに、しぶとく、まぁよく生きていたわね。」
優雅に流し目を勇気に送っていたが、いきなりクワッと目を見開いた。
「神たる私の意志に従わない!このゴミ虫めぇえええええ!」
右手の人差し指を高々と頭上に掲げた。
「ゴミはゴミらしく消し炭になって消え去るが良い!喰らぇえええええええええええ!」
ガガガガガッ!
「全てを滅ぼす神々の怒りの雷!防げるものなら防いでみろ!」
雲一つ無い青空だったが、上空に何百もの落雷が発生し勇気目がけて落ちてくる。
「ふん!女神の力ってそんなものか!」
落ちてくる雷に向かって拳を振り上げる。
バリバリィイイイイイイイイイ!
勇気へと目がけて落ちていた雷全てが、いきなり軌道を変え勇気の遥か後ろへと落ちていく。
ドォオオオオオオオオオオオンン!
「ば、馬鹿な・・・、拳圧だけで神の雷を吹き飛ばしただと・・・、たかが人間ごときが?」
醜悪な笑顔を浮かべた女神が再び右手を掲げた。
「そんなマグレは2度も続かないはず!これで終わりだぁああああああああ!」
ガガガガガッ!
「無駄だぁあああああああああ!」
大量の落雷が再び勇気を襲うが、またもや拳の一振りではるか後方へとずらされてしまう。
「そんなのぉおおおおおおおおおおおおお!この!この!このぉおおおおおおおおおお!」
何度も何度も落雷を落とすが、やはり全てが無駄に終わってしまった。
「そ・・・、そんな・・・」
女神は信じられない顔で放心状態になっている。
「分かったか?今の俺に小手先の攻撃は効かないんだよ。俺を倒したければ本気でかかってこい!」
拳を掲げクイっと人差し指を曲げる。
ザザーン!
何度も落ちた大量の落雷によって地面を深く抉り取り延々と遥か彼方まで地面が無くなっていた。
あの奈落の谷以上の峡谷が出来上がってしまった。
その渓谷へ大量の水が押し寄せ、あっという間に海が出来上がる。
チラッと勇気が後ろを振り返る。
「うへぇ~、腐っても神の力は本物みたいだな。あの雷魔法で地形が変わってしまう程なんて、少しは本気を出さないとヤバいかも?」
そんな言葉が出てしまっているが、ニヤッと笑い獰猛な笑顔で女神を睨んだ。
「始まったか・・・、様子見の攻防で大地が割れるとは、悪夢を見せつけられているようだぞ。」
やっとの事で勇気に追い付いたホムラだったが、深い溜息をしながら目の前の惨状を見つめている。
「魔王様、確かにこの光景は凄まじいですが、これを見る限りはあの国と地理的に完全に切り離されたと思いますよ。それなら我々の国は完全に独立出来るのでは?」
ポンと嬉しそうにカーミラが手を叩いた。
そのカーミラの行動にホムラは腕を組み、海峡となった場所を見る。
「確かに・・・、これだけ立派な海峡が出来てしまったからな。しかも、これだけの激しい潮の流れだし、ここから見ても到底船では辿り着けんだろうな。空を飛ぶか転移以外の方法ではこの島に渡る事は不可能だろう。空を飛ぶ魔法も転移魔法も今では消え去った古代魔法だからな。これで人間達からの理不尽な戦いも無くなるだろう。」
「ぐぬぬぬぅぅぅ~~~、人間如きがぁぁぁ~~~舐めやがってぇぇぇ~~~」
ギリギリと女神が歯を食いしばっている。
「どうした?俺がこれだけの力を持ったのがそんなにも信じられないか?それに口調も変わってきたな。その汚い言葉が貴様の本当の姿なんだろうな。見た目と同じでな!」
グッと拳を空中の女神へと向ける。
「神だからってな、何でも許されると思ったら大違いなんだよ!しっかりと俺に対する罪を償ってもらうからな!」
「罪を償う?神たる私がゴミの人間に?ふざけるなぁあああああああああああ!」
顔を真っ赤にしながら女神が叫んだ。
その拍子に全身のお肉も激しくプルプルと揺れている。
「神だろうが人間だろうが悪い事をすれば罪なんだよ!それすらも分らなくなったのか?このエセ女神が!貴様の罪はいくつもあるんだよ!」
「人間ごときが神を断罪する?頭でもおかしくなったか?」
「俺はまともだよ!おかしいのは貴様の頭じゃないのか?
どんな罪なのか!それを頭が悪そうなお前にしっかりと言ってやるよ!
まずはな!俺をこの世界に同意無しで召喚した!
元の世界から無理やりにな!
これは立派な『拉致』だよ!罪以外に何物も無い!
しかも!
この世界に来たら最後!もう元の世界に戻れずにこの世界に住み続けなくてならない!
魔王はこの世界ではちゃんとした常識の人間だしな!
絶対に倒す訳にはいかない!
だったら、俺がこの世界から元の世界に帰る術が無くなったんだよ!
こんなの世界という広い括りになっているけど、帰れずに閉じ込めているって事は『監禁』と同じだ!
それになぁあああああ!
あのクソ王国の奴等!
俺が使えないって分かった瞬間に切り捨てやがって!
落ちたら即死の奈落の谷に落としてな!
俺は運よく竜王に助けてもらったけど、それがなければ確実に死んでいた!」
「バ、バカな!竜王だと!」
女神が目を見開き勇気を見た。
ワナワナと震えながら何かを呟いている。
「竜王が人間を助ける?そんな事がある訳がない!だが、目の前にいる虫けらの筈の人間が神に匹敵する力を持っている事は竜王が関係しているならあり得る。それこそ竜王は私達上位神が束になっても・・・」
「ごちゃごちゃと五月蠅いんだよ!」
シュン!
勇気が拳を軽く前に突き出した。
「きゃぁああああああああああ!」
上空に浮いていた女神がいきなり吹き飛ばされ地面へと落ちてくる。
ドチャ!
まるで真っ白なボンレスハムが地面に落ちてくるように・・・
「いつまでも上から見下しているんじゃないぞ。」
勇気の言葉に女神の表情がとてつもなく険しく歪む。
「黙れ!黙れ!無能な人間ごときがぁああああああああ!魔法を多少無効化したくらいで調子に乗るな!だったらな!圧倒的な質量ならどうする?」
ズズズ・・・
「何だよ!これはぁあああ!」
後ろを振り返った勇気が絶叫する。
海の中から巨大な何かがせり出してくる。
巨大どころではない!
勇気が追放されたルレーブツグス王国の王城とは比較にならない大きな物体が海上に浮かんでいる。
「マジか?」
勇気の目が点になる。
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