2話 勇者と魔王
あれから3年後・・・
ギギギ・・・
重厚な扉が左右に開く。
「魔王様ぁああああああああああああ!」
1人の美しい女性が部屋に飛び込んでくる。
だが、ボロボロになってしまった服を纏って、美しい顔も所々に黒い煤が付き汚れていた。
「何事だ?」
魔王と呼ばれた人物が眉間にしわを寄せ不快な表情で眼下にいる女性を睨んだ。
この部屋はとても広く奥の方は階段状に高くなっていき、魔王と呼ばれる人物が座る豪華な玉座があり深々と座っている。
「緊急事態です!この魔王城に侵入者が!」
「ふむ・・・、お前のそのボロボロの姿から想像すると勇者か?女神め・・・、凝りもせず妾にけしかけるとはな。何度来ても無意味なのが分からないのか?」
魔王がニヤリと笑った。
「し!しかし!今回は違うのです!」
「どういう事だ?」
ピクリと片側の眉が上がった。
「私達では全く歯が立たないのです!かつての勇者達の強さとは違い過ぎます!私以外の四天王の3人は・・・」
ドガァアアアアアア!
女性が飛び込んできた際に閉じた大きな扉がいきなり爆発する。
「来たか?」
椅子に座っていた人物が立ち上がる。
炎のような真っ赤な瞳の視線は鋭く、破壊された扉へと向いていた。
爆発の煙が徐々に薄くなり中から1人の男が姿を現す。
「あのクソ女神が言っていた魔王が貴様か?」
しかし、男が驚愕の顔になり硬直してしまう。
「お、女?」
「そうだけど、何か問題でも?」
ニヤリと魔王が笑う。
魔王と呼ばれた女性は傾国の美女とも言えるほどに美しい女性だった。
微笑み一つだけで全ての男が跪くのでは?と思えるほど蠱惑的だが、反対に近寄りがたい程に冷たい視線を男に向けていた。
しかも、魔王は単に女性という存在だけではなかった。
「獣人だと?」
男がグッと身構える。
魔王のサラサラとした金色の長い髪が生えている頭には、人間にある耳以外に動物の耳が生えている。
その耳はどう見みても狐か犬の耳のようだ。
そして魔王に後ろにはフサフサな長い髪の色と同じ金色の尻尾が複数生えていた。
「狐の獣人か?」
魔王が嬉しそうに笑う。
「確かに妾は狐の獣人だが、ただの獣人とは違うぞ。」
ボボボッ!
魔王の体の周りにいくつもの青白い火の玉が浮かび上がる。
「まずは小手調べだ。これくらいの事で死ぬなよ!」
その瞬間、男から大量の殺気が溢れ出した。
「小手調べのレベルじゃないぞ、確実に俺を殺す気か?確かに魔王だけあって他とは桁違いだな。」
グッと拳を構え男と魔王が対峙する。
「待って下さい!」
先程の女性が男と魔王の間に割り込んだ。
「カーミラ、お前の力ではあの男には絶対に勝てん。それが分かっていてもか?」
魔王の言葉に女性が頷き、グッと視線を男に向ける。
「魔王様!確かに私の実力ではあの男の足元にも及ばない事は重々承知しています。四天王筆頭たる私ですら全く太刀打ち出来ませんでした。」
右手を横に振るといつの間にか巨大な漆黒の鎌を握っていた。
「ですが!私にも意地が!四天王筆頭としての意地があります!魔王様に害を成す者は私が排除します!例え我が身は捨て石になろうが、魔王様の負担が少しでも軽くな・・・」
トン・・・
「あ・・・」
カーミラと呼ばれた女性が小さ悲鳴を上げ、糸の切れた人形のようにガックリと崩れ落ちる。
「おっと!」
いつの間にか後ろに回り込んだ男が彼女を抱きかかえ、ゆっくりと床へと下した。
「何と!」
魔王が目を見開いて男の行動を見つめていた。
「妾でも微かでしか見えなかったぞ・・・、一瞬にしてカーミラの後ろに回り込み、首に当て身をして意識を刈るとは・・・」
「さっきは大勢からいきなり襲われたから咄嗟に反撃してしまったけど、俺はあまり戦いたくないからな。」
ニカッと男が屈託のない笑顔を魔王へ向けた。
「戦いたくない?貴様は勇者だろうが。女神に召喚された勇者は盲目的に妾を悪とみなし攻めてくるはずだが?貴様、何を考えている?」
スッ!
男が纏っていた殺気が消えた。
「俺もあのクソ女神と国に殺されかけたからな。だから、あんたが悪だとは決めつけていないんだよ。」
「そうか・・・」
魔王の周りに浮かんでいた炎の玉が消えた。
「これでお主と妾が敵対する理由は無くなったな。」
しかし、殺気は消えたが男の鋭い視線は変わっていない。
「まだだ、俺は召喚された時から酷い目に遭わされたんだ。俺はここがまだ信用出来るか判断していない。お前が信用出来るかは話を聞いてからだ。」
男から再び殺気が溢れる。
その様子を見ていた魔王が再び微笑んだ。
「そりゃそうだろう、あの女神と国が相手だったからな。お主が人間不信に陥る理由も分らなくはないぞ。」
魔王も男と同じように鋭い目を窓の外へ向ける。
「あの国は勇者に対しては最初こそは優しいが、実力を付ける為の訓練や演習は地獄みたいだからな。過去何人もの勇者がこの訓練で命を落としたか・・・、人間達の考えはブラックもブラック!人権など何も考えておらん。しかも、王家は選ばれた人間だと錯覚し贅沢三昧で民の事も全く考えておらん。そんなアホを養う為に重税や苦役でどれだけ国民が酷い目に遭っていると思って・・・、まぁ、お主もここに来るまで嫌というほどに見たと思うけどな。」
「確かにそうだよ。あのクソの国に比べるとこの国は入った瞬間、小さな村からでも活気があったよ。みんなが本当に楽しそうだった。それに、四天王も全員がお前を守る為に必死だった。それこそ死ぬ気で俺に挑んできた。その様子からお前がどれだけみんなから慕われているかが分かる。」
「妾も好きでこの世界で魔王を名乗っている訳ではないのだ。」
一瞬だが悲しそうな表情を魔王が浮かべた。
そして天井を仰ぎ見る。
「どうしてこのようになったのか・・・」
目を見開き拳を握り締めた。
「全てはあの女神の傲慢が発端だ!」
そして横になっているカーミラに視線を移す。
「妾だけではない、ここにいる魔族は他の世界からの漂流者なのだよ。何かの拍子で他の世界から次元を渡ってしまった者達の子孫なのだ。
女神はな、自分の世界に妾のような異世界の種族がいる事を嫌って排除しようとしている。
自分だけを崇拝し崇める種族以外は要らないとな!
まぁ、妾達もあの女神を崇拝する気もないし、元々が別の神の加護を持っているから、あの女神の加護を付けられないのもあるけどな。
こちらは誰にも迷惑もをかけず静かに平和に暮らしたいのに・・・
それにも関わらず一方的に悪と決めつけ、世界の異物として妾達を滅ぼそうとしているのだ。
女神からの一方的な差別から皆を守る為に、魔族の中で一番力を持っていた妾が立ち上がったのだ。女神の対の存在として魔王と名乗ってな。
妾の力はこの世界の人間にとっては強力過ぎて全く歯が立たん。しかも、女神は制約でこの世界に直接干渉は出来ない。
そんな状況を打破しようと女神が考えた手段が勇者召喚という手だった。
どういう訳か謎だけどな、異世界から召喚した人間に対して女神が加護を与えると、神が使えるスキルを持つことが出来るのだ。
召喚した勇者はこの世界の人間よりも遥かに強力な『人間兵器』となって妾を殺そうと攻め込んできた。
『魔王は悪!魔族はこの世界から滅ぼさなければならない!』
そのように教え込んでな。」
男から殺気が完全に消え、構えを解き無防備となる。
「あの女神ならやりかねんよ。ずっと目の敵にされているのにはこちらも同情する。」
「分かってくれたか?」
「あぁ、女神とあの国は俺とお前にとっても共通の敵だって分かったよ。お前と敵対する理由も無いし、いきなり押しかけて暴れた事は悪かった。」
「よいよい、全面的に争わなくて良かったと心から思うぞ。貴様と本気で戦ってしまったら妾でも勝てるか?それだけ貴様の強さの底が見えんな。」
「そうか・・・」
男がニカッと再び笑う。
「この3年間、死ぬ気で頑張ったんだ。最強と言われる魔王に言われると頑張った甲斐があったな。だけど、あと1つだけ聞いていいか?」
「何だ?何を聞きたいか分かるが、敢えて貴様の口から聞こう。」
魔王が返事をすると、男の表情が真剣になった。
「召喚された人間が元の世界に帰る方法は無いのか?」
その言葉に魔王が深く頷く。
「あるにはある。だが!それは妾を殺す事だ!それがこの世界、そしてあの女神が課した異世界人に対するルールだよ。
しかしだ!妾が殺され世界からいなくなってしまえば、この国は女神やあの馬鹿共の国に蹂躙されるかもしれん。
世界で一番平和なこの国がだ!
それだけは絶対に防がなくてはならん!
妾と戦った歴代勇者達は真実を知り、これ以上妾と敵対して戦う事は無くなった。その後、あの女神が管理している国に愛想を尽かしてこの地に留まり、魔族を妻や夫に迎え家族を持ち天寿を全うしたのだよ。
その勇者達の子孫の一部がこの城にいる四天王や幹部達だ。
歴代勇者は誰も死んでもおらん!
女神が自分を正当化する為に言った嘘だ。
分かったか?これがこの世界の真実だ。」
「やっぱりな・・・」
今度こそ男らかの殺気が完全に消え去った。
「分かってもらえたか?」
「分かったも分かった。まぁ、俺もある人から教えてもらったけど、やっぱり大切な事は自分の目で確かめないと納得出来ないからな。」
!!!
男と魔王が同時に扉へと顔を向けた。
ズザザザァアアアアアア!
壊れた扉から3人の男達が飛び込み、勢いよく土下座をした。
「お願いします!私の命はどうなっても魔王様だけは!」
「魔王様は我々の希望なのです!どうか!どうか!」
「奴隷でも何でもしますから!魔族国には手を出さないで下さい!」
必死に額を床にこすりつけ懇願している。
「「「どうか魔王様だけは!何卒!何卒ぉおおおおおおおおおおおおおおお!手を出さないで下さい!」」」
「お前達・・・」
「良い部下に恵まれたな。」
男は土下座をしている男達へ視線を送る。
「妾には勿体ないくらいの出来た部下達だ。」
魔王が微笑みながら男へと顔を向ける。
「それでお主はどうするのだ?もうあの国には帰る気も無いのだろう?かつての勇者達と同じようにこの国に住むか?」
「いや・・・」
男がゆっくりと首を横に振った。
「俺は俺なりのやり方で元の世界に戻る方法を探すよ。師匠に聞けば手掛かりくらいはありそうだからな。時間はたっぷりあるんだ。ゆっくりと旅でもしながら・・・」
ガカッ!
突然、魔王城の窓から稲妻の光が入ってくる。
「この晴れた空に雷鳴とは?しびれを切らしてとうとうヤツが現れたか?」
とてつもない憎悪を込めた視線が窓の外へ向いた。
「ヤツって?まさかアイツか?」
男が魔王に視線を送ると魔王は男の意志を感じたのかコクンと頷く。
「そうだ!この茶番劇を仕組んだ元凶たるヤツだ!」
しまった!
今回は説明回だからかなりシリアスな話になってしまった。
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やる気倍増になります。