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短編・ショートショートシリーズ

半分こ

作者: 古野ジョン

 妻と結婚して数年が経った。初々しかった新婚時代も終わり、すっかり共同生活にも慣れてきた。でも、結婚当初から変わらない習慣が一つある。


 それはゴミ捨て当番の決め方だ。毎週土曜日、資源ごみをどちらが出しに行くかじゃんけんで決めている。こんな大人になってまでなぜじゃんけんで決め始めたのかは忘れたが、公平なやり方なので続けている。


 だが最近、妙な違和感がある。というのも、最近はじゃんけんで負ける割合がきっかり一対一になってきたのだ。四週前は俺が負け、三週前は妻が負け、二週前は俺が負け、先週は妻が負けた。つまり今週は、俺が負ける番ということになる。偶然そういうこともあるかもしれないが、少し不思議だ。


 そして、土曜日になった。朝食後、俺と妻はじゃんけんをする。

「じゃーんけん、ぽん!」

妻がチョキを出し、俺がパーを出した。俺の負けか。


 今週も法則通りになってしまった。妻はどう考えているんだろうか?聞いてみよう。

「なあ、最近隔週でじゃんけんに負けてる気がするんだが」

「え、そうなの?」

「ああ、一か月くらい前からな」

「ふーん……そういうこともあるんじゃないかしら」

「そういうもんかね」

少し含みを持たせたような返事だったが、まあいいか。


 その日の午後、俺はお茶を飲みながら読書していた。妻は用事があるらしく、どこかに出かけている。

「ただいまー」

おっと、帰ってきたようだ。俺は「おかえり」と言いながら妻の湯飲みを出し、お茶を用意してやった。


 妻も椅子に座り、お茶を飲み始めた。「なんだかお腹空いたわ」と言いながら、テーブルにあるお茶菓子をパクパクと食べ始める。「そんなに腹が減るようなことをしてきたの?」と尋ねると、「まあ、ちょっとね」と返ってきた。


 いつものように、平和な土曜だなあ。俺と妻はお茶を飲みながら、他愛もない会話を続ける。

「そういえば、町内会で揉めてた件はどうなったの?」

「ああ、解決したわよ」

「そうなんだ、良かったね」

何も変わらない、のんびりとした日々だ。


 夕方、妻が夕食の準備を始めた。しばらくすると、台所から「いたっ」という声がした。「大丈夫か?」と妻のところへ行くと、妻の指から血が出ていた。

「ちょっと包丁で切っちゃっただけよ。大丈夫だから」

「そうか、ならよかった。せっかくだし、俺も手伝うよ」

そう言うと、俺はもやしの袋に手を伸ばした。


 はさみで袋を開けようとしたが、手が滑った。

「いたっ」

俺も指を切ってしまった。

「あらら、あなたもなの?いやあねえ」

妻はそう言いながら、絆創膏を持ってきてくれた。ん?


 よく見ると、俺が怪我した場所と妻が怪我した場所が全く同じだった。俺は思わず、口を開く。

「なあ、俺たち全く同じ場所を怪我してんぞ」

「え?あらほんとだ、不思議ねえ」

そう言いながら、妻は絆創膏を巻いてくれた。気にしていないのだろうか。


 夕食を食べて風呂に入ったあと、俺たちは床に就いた。うとうとして意識がぼんやりとしてきた頃、妻が話しかけてきた。

「この間、夢の中に神様が出てきたの」

「へえ……それで?」

「何でも願いを叶えてくれるっていうから、お願いしたの」

「何を?」

「何でもあなたと半分こになりますようにって。楽しいことも、辛いことも」

「何だよ今さら、照れるじゃないか」

「ふふ、いいじゃない」

妻はそう言って、俺の手を握ってきた。


 いつの間にか眠ってしまっていて、気づけば朝になっていた。

「ねえ、ちょっとお出かけしたいんだけど。私が運転するからさ、ついてきてくれない?」

朝食後、妻がそんなことを言いだした。珍しいな、どこに連れて行ってくれるんだろう。俺は少し良い気分になって、ついていくことにした。


 車に乗りこむと、妻は郊外の方へと走り出した。温泉にでも連れて行ってくれるのかと思ったが、車はどんどん山道へ入っていく。少し心配になっていると、妻が「着いたわ」と言って車を停めた。


 そこは、何もない山奥だった。「どこなんだここは?」と聞くと、「いいからついてきて」と返ってきた。少し不安になるが、ついていくしかない。言われるがまま、山の中に入って行った。


 間もなくすると、何だか妙な物体が見えてきた。何だあれ?不思議に思って、よく目を凝らしてみる。二メートル弱くらいか、一体何が……と思っていたが、その物体の正体に気づいた途端、俺は血の気が引いた。


 妻は、その物体の前で立ち止まった。

「ねえあなた、これを埋めるのを手伝ってほしいの」

「おい、これって」

「私一人じゃ無理でしょう?」

「いや、そういうことじゃなくて……」

どうすれば良いのか分からずにいると、妻が一言、俺に告げた。


「何でも、あなたと半分こなのよ」

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