③
廊下から階段を下りて1階の下駄箱で靴を履き替えて外に出る。
バス停に向かう途中、横のグラウンドに視線を向けると、野球部の練習を見ている女子の人だかりが見えた。
そして彼女たちの視線の先には、マウンドに立つエースピッチャーの野村の姿。
“嫌なヤツ”
同じ中学から、この高校に進学した中で、僕はコイツが一番嫌いだ。
理由は、ヤツの才能の問題。
野村は中学時代もエースピッチャーで、県大会で準優勝した。
当然県内外の野球の強豪校からオファーが在ったにもかかわらず、地元に近い進学校であるコノ学校を選んだ。
うちの高校は県内有数の進学校ではあるが、野球部が強いか弱いかと聞かれれば、100人中100人が「弱い」と答えるくらいのレベル。
何しろ県予選では1回戦敗退の常連で、僕が知っている限りでは3回戦に駒を進めたのが最高と言うありさま。
噂によると、弱小校に居れば練習も左程ハードでは無い上に、エースとしての存在感が増し、兎に角目立つからだという。
何をしようが、どの高校を選ぼうが、個人の勝手ながらスポーツマンとしての根性論を考えた場合釈然としないばかりか、森村直美がその野村と付き合っているという噂があるのを知って余計癪に障る。
いや。
噂ではない。
僕は、見た。
野村が漕ぐ自転車の荷台に乗り、僕の待つバス停まで送られて来る直美を。




